追放した師匠から、最高級の部品が届いた
営業停止中の工房にも、人は来た。
老婦人は食事を置き、マリナは織り上げた布を持ってきた。飛行艇の操縦士は修理代の残りだと言って屋根材を運び、行商人は「人体接続でなければ売ってよいだろう」と生活魔導具の依頼を山ほど置いた。
一人の隠れ家だった廃工房は、いつの間にか人の声が絶えない場所になっていた。
「営業停止とは、もっと静かな状態を想定していました」
「君が生活魔導具を三十件引き受けたせいだ」とロイドが答える。
エリスは《全自動お茶運び機・優雅なる給仕王》を起動した。台車は優雅に一歩進み、壁へぶつかって茶をこぼした。
「直進性能は完璧です」
「工房には壁がある」
「次は曲がる機能を追加します」
笑いが起きたとき、黒い封蝋の小包が届いた。
差出人は、カインゼル・ヴァルハルト。
中には最高級の特注同調石が収められていた。エリスの四肢統合制御にしか合わない精度で加工され、添えられた紙には一文だけ記されている。
> 君の身体は、まだ完成していない。
>
工房の空気が静まった。
解析台へ置いた瞬間、同調石は接続していないのに明滅した。波形はエリスの心拍と一致し、さらに義肢が蓄積した生体信号まで既に記録されている。
「どうして、これが今の私の波形を知っている」
誰も答えられない。
カインゼルは彼女を救った。現在の義肢技術にも、彼の基礎研究が使われている。だからこそ、善意なのか監視なのかを簡単には決められなかった。
エリスは石を壊さなかった。装着もしなかった。遮断箱へ入れ、三重の錠をかける。
「自分で解析します。私の身体をどうするかは、私が決めます」
夜、最後の客が帰ると、看板の青い光だけが作業台を照らした。
処分書。白化した制御石。回収印のある義足。カインゼルから届いた同調石。謎は増えている。
それでも棚には、直すのを待つ道具が並び、明日も人が扉を叩く。
翌朝、その扉は叩かれる前に勢いよく開いた。
長い黒髪を束ねた女性が医療鞄を手に立ち、エリスの肩と義肢の接続部を一目見て眉を吊り上げる。
「あなたがエリス・クロイツェルね。その義肢を、今すぐ全部外しなさい」
エリスは数秒、何を言われたのか理解できない顔で瞬きをした。
「……全部、ですか?」
女性は即答した。
「全部よ」




