寝ている間に義肢を外すなんて無理です
旧義足の白晶石を解析するため、エリスは工房の魔導炉を夜通し動かした。
炉の温度は上がり続け、彼女の義肢も同じ魔力脈へ接続している。冷却のためには、少なくとも左腕を数時間停止させる必要があった。
「外せばいい」とロイドが言う。
「寝ている間に義肢を外すなんて無理です」
返事が速すぎた。
ロイドは理由を聞かなかった。炉の監視と入口の見張りを自分が引き受けるとだけ告げ、寝台代わりの長椅子から少し離れた場所へ椅子を置いた。
エリスは工具箱を右手の届く位置へ置く。接続錠へ触れ、やめ、炉の温度を確認し、また触れた。
「左腕だけです。右腕と両脚は稼働状態。異常時には〇・八秒で再装着できます」
「分かった」
「〇・六秒まで短縮できる新型錠を作れば――」
「今夜は作るな」
「では名称だけ」
「寝ろ」
左腕が外れると、エリスの肩から急に重さが消えた。軽いはずなのに、身体の一部が開いたようで落ち着かない。毛布を肩まで引き上げ、右手で左側の接続部を隠す。
ロイドは入口に背を向けず、炉の計器だけを見ていた。彼が勝手に近づかないことを確認してから、エリスは目を閉じた。
夜半、金属が触れる音がした。
エリスは跳ね起き、右手で左腕を掴んだ。接続錠を合わせる動きに迷いはない。
「俺だ。薪を足しただけだ」
暗闇の中でロイドの声がする。その前に、重い靴が床板を二度鳴らす足音を、エリスは聞き分けていた。
彼女は息を整えたが、左腕を外し直すことはできなかった。
朝、炉の温度は安全域まで下がっていた。数時間にも満たない休息だったが、同調回路の熱は抜けている。
「監視記録です」とロイドへ紙を渡されたエリスは、細かな時刻と温度を見て目を瞬いた。
「正確ですね」
「現場では、眠そうな天才より記録の方が信用できる」
「私は眠くありません」
言った直後に欠伸が出た。
ロイドは笑わず、朝食を置いて外へ出た。エリスはその足音が遠ざかるまで聞いてから、左肩の接続錠へ触れた。
たった一本。たった数時間。それでも昨夜、彼女は自分の身体の一部を外し、誰かがいる場所で眠った。




