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治せないものを、なかったことにしない
カインゼルは選べなかった。
感情を戻せば、自分が救えなかった者たちと、エリスから奪ったものへ向き合うことになる。維持すれば、間違いを認めないまま同じ設計を繰り返す。
「痛みを抱えて、何が残る」と彼は問うた。
エリスは自分の身体を見下ろせなかった。四肢のない身体は仲間に支えられ、義肢はトルヴァンのそばに置かれている。それでも、答えは明確だった。
「痛みが立派だから残すんじゃない。消せないものまで、なかったことにしないためよ」
失った四肢は戻らない。幼い頃の時間も、恐怖のない人生も、カインゼルと過ごせたかもしれない師弟の年月も戻らない。
けれど、戻らなかったから生まれた義肢がある。工房がある。失敗を記録するノアール、身体の声を聞くリンファ、壊れた部品を支えるトルヴァン、背中を預けられるロイドがいる。
エリスはカインゼルを論破しようとしなかった。ただ、自分が変わってきた事実を示した。
「私は、治っていない。でも、止まってもいない」
長い沈黙のあと、カインゼルは段階的離脱を選んだ。最初に戻ったのは涙ではなく、指先の震えだった。
エリスはそれを回復と呼ばなかった。失敗とも呼ばなかった。
彼が初めて自分で選び直した、次の状態だった。




