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完全な身体を作った男
分割された中央核の奥に、カインゼルがいた。
彼の身体は白い光に包まれ、呼吸も鼓動も一定だった。驚きも怒りも、その顔には浮かばない。
エリスが名を呼ぶと、彼は穏やかに振り返った。
「私は痛みを克服した。だから、正しい判断を続けられる」
リンファが魔力の流れを見抜いた。カインゼルは自分の感覚と感情の一部を固定している。白化災害で失った研究者たち、幼いエリスの叫び、自分の判断への疑い。それらに触れない状態を、完全と呼んでいた。
「いつから?」とエリスが尋ねる。
「必要になった時からだ」
「それは答えになっていない」
カインゼルは、エリスの救命処置をした夜からだと告げた。彼もまた、自分が選んだ処置の重さに耐えられなかった。痛みを消し、迷いを止め、二度と間違えない自分を作った。
エリスの中にあった怒りが、同情へ置き換わることはなかった。同情できる理由があっても、奪われた選択が消えるわけではない。
「あなたも患者だったのね」
「私は完成した」
「いいえ。止まっていただけ」
白い術式が、カインゼルを災害前の感情へ戻そうとする。彼は初めて怯えた。
エリスは解除装置を勝手に作動させなかった。
「戻すか、維持するか、少しずつ離れるか。あなたが選んで」
敵にさえ、選択肢を渡す。それが、彼女が守ろうとした設計だった。




