背中は任せた
ロイドはエリスを背負い、中央核へ続く白い階段を上った。
一段ごとに、止まっていた都市の感覚が流れ込む。消えなかった痛み。消された恐怖。昨日の状態へ戻された身体。変わらないことを望んだ人と、変わることを選んだ人。
エリスには自分で工具を握る手がない。だから、言葉を渡した。
「右の第三継手。四分の一だけ緩めて」
「四分の一だな」とトルヴァンが応じる。
「リンファ、魔力循環が乱れたら止めて。私が続けろと言っても」
「最初からそのつもりです」
「ノアール、分散装置の選択記録を中央核へ」
「記録は命令ではなく、本人の選択として送ります」
白い防壁が通路を塞ぐ。ロイドはエリスをリンファへ預け、帰還籠の固定索で床と壁をつなぎ、壊さずに迂回路を作った。かつて派手さを捨てて作り直した救助具が、最後の道を開く。
誰か一人では成立しない。
中央核の前で、エリスはロイドの背中から装置を見上げた。以前なら、自分の義手を接続して一人で制御を奪っただろう。
「背中は任せた」と彼女は言った。
「もう任されている」
トルヴァンが装置を支え、リンファがエリスの身体を維持し、ノアールが都市中の選択を読み上げる。ロイドが彼女の視線の高さを中央端子へ合わせた。
エリスは口頭で最後の配線を指示した。
中央核は停止しなかった。代わりに、四つに分かれた。
破壊ではない。唯一の答えを、選び直せる複数の道へ変えるための分解だった。




