あなたの明日を、私が決めてはいけない
療院の広間に、三つの札が並んだ。
《維持》《段階的離脱》《解除》。
その隣には、四つ目の札がある。《今日は決めない》。
カインゼルの支持者は、選択肢を増やせば患者を混乱させると訴えた。反対派は、完全治療を残すこと自体が支配への加担だと責めた。
エリスは両方へ首を振った。
「自由を与えると言って、私の望む選択をさせるなら、やっていることは同じよ」
患者一人ひとりに、リンファが身体上の影響を説明し、トルヴァンが装置の扱いを見せ、ノアールが意思を記録する。ロイドは家族や役人が本人の返答を遮らないよう、面談室の外に立った。
エリスは最後に一つだけ尋ねる。
「明日、気が変わった時に戻ってこられる形は、どれですか」
答えは一人ずつ違った。
完全治療を維持した老人は、孫の顔を痛みなく見たいと言った。段階的離脱を選んだ職人は、震える手でももう一度木を削りたいと言った。決めない札を選んだ少女は、今日は眠りたいと答えた。
誰も物語の象徴ではない。それぞれの生活を持つ人間だった。
その夜、中央塔から白い術式が再び強く脈打った。分散装置へ、すべての判断を一つへ戻そうとする命令が届く。
エリスは接続波形を見て、カインゼルが中央核を完全起動したと悟った。
「選択肢を守るには、中心へ行くしかない」
彼女は四肢の接続部を確かめた。そこへ行くには、自分の制御を一度すべて手放さなければならなかった。




