痛みを返す装置
最初の離脱試験を受けた女性は、白い光が薄れた瞬間に膝を抱えた。
消えていた痛みが戻った。痛みだけではない。治療前、再び歩けなくなることを恐れていた記憶も、眠れなかった夜も、同時に押し寄せた。
エリスは停止装置へ手を伸ばしたが、リンファが視線だけで止める。
「戻せば楽になる。でも、それを決めるのは私たちではない」
女性は息を整えながら、完全治療へ戻すことを望んだ。エリスは反論しなかった。装置を再接続し、痛みが消える速度を本人に確認しながら調整した。
次の男性は、痛みが戻っても離脱を続けると答えた。三人目は、一日に一度だけ感覚を戻したいと言った。
同じ身体状態でも、選択は違う。
エリスたちは質問を作り直した。「治療を解除しますか」では足りない。戻る感覚、起こり得る苦痛、途中で変更できること、何も決めないまま待てることまで伝えなければならない。
考え込んだエリスは食事中も説明文を組み立て続け、パンをスープへ落とし、匙を机へ置くつもりで自分の工具箱へ差し込んだ。
「食事と設計を同時にしない」とリンファが言う。
「これは同時処理能力の検証よ」
「失敗しています」
「有益な失敗ね」
短い日常のあと、エリスは再び女性の前へ戻った。
「痛みを返すかもしれない装置です。だから、私が勝手に使ってはいけない。あなたが何度でも決め直せるように、ここにいます」
救うことは、苦痛をゼロにすることではない。苦痛を含めた明日を、本人へ返すことだった。




