天才がいなくても動く装置
工房区の切替器が、設置から十二分で停止した。
エリスは反射的に工具を伸ばしかけ、途中で手を止めた。修理担当はトルヴァンだ。彼が読めない構造なら、この装置は完成していない。
「開けてみて」
「お前が触らなくていいのか」
「触りたい。猛烈に。でも我慢する」
内部には同じ形の交換箱が三つ並び、壊れた箱だけを抜ける。術式は色と触感でも判別でき、説明書が読めない者でも順番を間違えにくい。
エリスは当初、十九段階の自動診断と遠隔再起動を組み込もうとした。全員に止められ、最終的に残ったのは手回しレバー、交換箱、警告灯だけだった。
ただし部品箱を開けると、なぜか業務用の高速攪拌器が入っていた。
「高出力遮断器と接続規格が同じなのよ」
「同じにするな」
「非常時にはスープも作れる」
「いま必要なのは都市の救助だ」
トルヴァンは遮断器を交換し、再起動させた。エリスの手は一度も内部へ入らなかった。
療院区でもリンファが同じ装置を止め、住居区ではノアールが記録を読みながら交換した。ロイドは外壁側で、子どもに手回しレバーを回してもらった。
一人の天才が倒れても動く。説明を聞き逃しても直せる。間違えた時には、壊れる前に止まる。
エリスは完成した四台を見て、少し悔しそうに、それ以上に嬉しそうに笑った。
「名前は『全域自律分散式超絶――』」
「《手動切替器》で登録した」とノアールが告げた。
天才の名前が残らなくても、その装置は動き続けた。




