逃げ道は、四つあった方がいい
白い国の中で、動ける者は五人しかいなかった。
中央塔から伸びる四本の術式路は、それぞれ異なる速度で都市を固定している。エリスは一枚の設計図へ全経路を描こうとしたが、右手が紙の上で止まった。
「一枚では駄目ね。これを失えば全部止まる」
ノアールが四枚の紙を並べた。だが、エリスが描いた療院区の避難図は、建物が精密なのに人間がすべて棒と丸だった。
「これは患者ですか、配管ですか」
「人よ。腕も描いたでしょう」
「左右で三本あります」
「移動補助具よ」
ロイドが無言で紙を裏返した。緊張の中で、トルヴァンだけが肩を震わせた。
一行は四方向へ手動切替器を運ぶ。療院区はリンファ、工房区はトルヴァン、住居区はノアール、外壁側はロイド。エリスは全体を指揮するのではなく、各人が判断できる最低限の条件だけを渡した。
「白い光が二本重なったら切る。一本なら待つ。判断に迷ったら、人に聞く。私には聞かなくていい」
それは彼女にとって、装置を作るより難しい設計変更だった。
住民を運ぶ途中、試作切替器から場違いに陽気な旋律が流れた。エリスが動作確認のために自作した警告音だった。
「いまの歌、何です」
「『離脱路よ、未来へ走れ』」
「警告音に歌詞をつけるな」
五人の操作で、都市外壁に細い裂け目が生まれた。固定された風が動き、紙片が一枚だけ地面へ落ちる。
万能の出口ではない。だが、自分で選び直せる四つの逃げ道だった。




