私の義肢は、間違いだらけでできている
王都技術評議会で、エリスは自分の義肢を公開した。
壇上へ上がると、記者たちが息を呑む。濃紺の正装に身を包んだ彼女は、黙っていれば冷静な名家の令嬢にしか見えない。
その印象は、最初の設計図を広げた瞬間に消えた。
「右腕、初期型。出力を上げすぎて肩の接続部を三回壊しました。左腕、第二型。指先の感度を欲張って雨の日に勝手にじゃんけんを始めました。右脚、制動不足で市場の噴水へ突入。左脚――」
「失敗自慢の会ではありません」と司会が止める。
「重要な技術史よ!」
早口で反論しながら、エリスは現在の四肢を作業台へ置いた。表面には傷があり、部品の色も揃っていない。改修日と理由が、小さな刻印で残されている。
「私の義肢は、間違いだらけでできています」
会場が静まった。
「だから、今の私に合わせて変えられる。昨日の正解を固定しない。痛みが出たら出力を落とす。仕事が変われば指を変える。怖くなったら外す。必要なら、また着ける」
完全治療側の技師が問う。
「故障と痛みを美化するのですか」
「いいえ。減らせる苦痛は減らす。でも、変化できることまで欠陥とは呼ばない」
リンファが装着部の診療記録を、ノアールが改修履歴を示した。ロイドとトルヴァンは、本人以外でも手動停止と最低限の修理ができる構造を実演する。
エリス一人の天才性を証明する発表ではなかった。
最後に、彼女は自分の右手を再装着した。接続音のあと、指が一本ずつ動く。
「完成していない身体で、生きてはいけない理由はありません」
評議会は完全治療の停止を決めなかった。しかし、患者が治療記録と基準状態を閲覧する権利、第三者工房へ相談する権利を認めた。
小さな前進だった。
工房へ戻ると、新しい看板の案が届いていた。
《クロイツェル魔導工房――失敗作展示中》
「誰が出したの」
全員が視線を逸らした。
エリスは怒りながらも、その紙を捨てなかった。




