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選ばないことを、選ぶ権利

工房へ集まった人々の意見は、二つには分かれなかった。


完全治療を止めたい者。続けたい者。少しだけ出力を弱めたい者。自分では決められないから家族へ任せたい者。そして、何も知りたくない者。


エリスは最後の人に戸惑った。


「説明を受けないままでは、同意にならないわ」


「説明を受けること自体が苦しいんです」


老女は夫の治療方針を何年も選び続け、どの選択にも後悔していた。完全治療の導入後、初めて判断から解放されたという。


「装置に任せると、私が決めました。もう選択肢を渡さないでください」


エリスは、自分たちが作ろうとしている停止機構を見た。誰でもいつでも離脱できることは重要だ。だが、毎日「本当に続けますか」と尋ねられることが、救いになるとは限らない。


ノアールが記録紙へ新しい項目を加えた。


《意思確認の方法を本人が選べる》


定期確認を望む。変化があったときだけ知らせる。指定した代理人へ任せる。本人が求めるまで尋ねない。ただし緊急時の最低限の保護条件は残す。


「選ばないことを選ぶ権利、か」とロイドが言う。


「矛盾しているようで、していないわ」


エリスは一気に説明を始めた。代理判断の更新周期、撤回手段、記録封印、緊急停止条件。三分を過ぎたところでトルヴァンが砂時計を裏返した。


「まだ前置きよ」


「前置きで昼が終わる」


工房に笑いが起きる。だが老女へ説明するとき、エリスは言葉を短くした。


「あなたが尋ねてほしいと言うまで、こちらからは尋ねません。ただ、呼ばれたら必ず行きます」


老女は安堵したように頷いた。


カインゼルの制度は、すべてを装置へ委ねる。エリスたちの仕組みは、すべてを本人へ押し返す危険がある。


自由は、選択肢を増やせば完成するものではない。


その夜、停止機構の設計書に第五の操作方法が追加された。


《今は選ばない》

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