幸せな人形は、不幸なのでしょうか
完全治療を受けた人々への追跡面談は、穏やかすぎるほど穏やかに進んだ。
眠れない者はいない。強い不安を訴える者もいない。家族との口論は減り、仕事の能率は上がっている。
「幸せですか」とノアールが尋ねる。
誰もが、はい、と答えた。
ただし、答えるまでの間も、声の高さも、ほとんど同じだった。
娘が泣いても何も感じないと語った女性は、今ではその悩みさえ訴えない。「育児に支障はありません」と整った笑顔で言う。彼女が以前好きだった即興歌を頼んでも、必要性を尋ねるだけだった。
「苦しんでいない人を、不幸だと決めるの?」
エリスの問いに、誰もすぐ答えられなかった。
リンファは医学的異常を示せる。ノアールは嗜好と反応の変化を記録できる。だが本人たちが幸福だと言うなら、外からそれを偽物と断定することも支配になる。
セドリックを訪ねると、彼は同じ木を何枚も描いていた。正確で美しく、寸分違わない。
「前みたいな木を描きたいと思わない?」
「現在の絵に不満はありません」
「痛みを戻してでも?」
青年の筆が初めて止まった。
「その質問は、治療前の僕に聞いてください」
エリスの胸が詰まる。治療前と治療後、どちらの意思を優先するのか。どちらも本人だとすれば、簡単な答えはない。
工房で停止機構の試作を続けた。目的は完全治療を強制解除することではなく、本人が現在の状態のまま一時停止し、考える余地を作ることへ変わった。
「感情を戻す装置ではないわ。戻すかどうかを決める前に、装置の維持命令だけを止める」
術式は繊細だった。強制停止すれば、抑えられていた痛みが一度に戻る危険がある。出力、速度、安全性を同時に最大化できない。エリスの五原則が、ここでも立ちはだかる。
夜更け、彼女はセドリックの絵を見上げた。
幸せな人形は不幸なのか。
その問い自体が、相手を人形と決めつけているのかもしれない。
だからエリスは、幸福を判定する装置を作らなかった。代わりに、本人がいつでも問い直せる扉を作ることにした。




