救われた命は、救った人の所有物ではない
カインゼルとの最後の面会は、工房で行われた。
エリスの場所で、エリスの椅子を使い、帰る時刻も彼女が決める。壁には失敗報告が並び、作業台には傷だらけの義肢が置かれていた。
カインゼルは完全再生肢の輸送が停止されたことを知っていた。それでも、自分の判断が誤りだったとは認めなかった。
「君は保管塔で動けなくなった。完全再生肢があれば、あの危険はなかった」
「仲間に助けを求めたから、帰ってこられたわ」
「他人へ依存する危険をなくせる」
「依存ではなく、関係よ」
エリスは十二年前の処置記録を机へ置いた。
「私の命を救ってくれたことには感謝している」
カインゼルの表情がわずかに緩む。
「でも、私が泣いた記録を消したことは許さない。私に知らせず部品を送り、拒絶を恐怖だと決め、同意のない治療を準備したことも受け入れない」
感謝と拒絶を同じ言葉の中へ置いても、どちらも壊れなかった。
「救われた命は、救った人の所有物ではない。私の明日を決める権利は、私にある」
カインゼルは長く黙った。やがて、ひどく疲れた声で言う。
「選ぶから、人は間違える。拒むから、救えない命が生まれる」
「間違えないために生きるのではないわ」
「ならば私は、選ばなくてよい世界を作る」
彼は工房を去った。理解したからではない。エリスの拒絶を、治療すべき世界の欠陥として受け取ったのだ。
重い沈黙の中、作業台の端で小さな試作品が煙を上げた。エリスが面会前に組んでいた手動停止器である。
ロイドが煙を見て尋ねる。
「名前は」
エリスは真顔で胸を張った。
「《世界で一番やさしく絶対止まる超安全停止くん・人の話を聞く型》」
「長い」
「そこが重要なのよ」
全員の声が重なり、工房にようやく小さな笑いが戻った。
その夜、王都の中央療院で、歩けなかった患者が白い脚で立ち上がった。痛みはなく、震えもない。見守った人々は奇跡だと叫び、カインゼルの名を讃えた。
その鐘の音は、白い脚で立ち上がった患者の奇跡を祝うように、街じゅうへ鳴り響いていた。




