その手を借りたら、負けになると思っていた
完全再生肢の輸送を止めるため、エリスたちは技術院の保管塔へ向かった。
同意欄のない治療具を患者区画へ送る前に、記録と制御核を確保する。ノアールが正式な調査権限を提示し、ロイドが搬送路を確認する。リンファは装着対象者へ説明するため療院へ残った。
保管塔の中層で、白化共鳴が起きた。
エリスの義肢が同時に硬直する。右腕は扉を開こうとし、左腕は制御核を守ろうとし、両脚は逆方向へ退避命令を出した。白化地帯で学んだ通り、一肢ずつ停止すればよい。だが今回は、停止信号そのものが白化制御に奪われていた。
床へ倒れたエリスの視界に、白い義肢が迫る。装着対象を保護するため、強制接続しようとしている。
ロイドが手を伸ばした。
エリスは歯を食いしばった。その手を借りれば、自分で進めなかったことになる。カインゼルに、やはり判断できないと思われる。
だが、ひとりで倒れたまま捕まることが、選ぶことではない。
「助けて」
声は思ったより小さかった。それでも三人には届いた。
ロイドが身体を抱え、ノアールが白い義肢の動きを読み、トルヴァンが手動楔を駆動部へ打ち込む。エリスは運ばれながら、制御核の配線だけを指示した。
「青を二本、次に黒。赤は最後。絶対に同時に抜かないで」
「説明が多い」とノアール。
「今回は必要よ!」
白い義肢が停止し、保管塔の扉が開いた。外へ出たあとも、エリスの四肢は動かなかった。
ロイドは彼女を下ろそうとしたが、エリスは首を振る。
「工房までお願い。今日は、自分で歩くことにこだわらない」
借りた手は、彼女の敗北を証明しなかった。選んだ場所へ進むための手段になった。




