四肢を失う前の私を、私は知らない
完全再生肢の提案を断ったあとも、エリスはその設計図を忘れられなかった。
夜中、彼女は自分の義肢を机へ並べた。傷、継ぎ足した配線、何度も交換した関節。左右で規格すら違う。完全という言葉からは最も遠い。
災害前の生体記録を使えば、失う前の手足を再現できる。痛みも調整も減り、眠るたびに接続部を気にする必要もなくなるかもしれない。
「戻りたいと思うのは、負けかしら」
リンファは答えなかった。代わりに、完全再生肢を選んだ場合、今の義肢を使い続ける場合、試験だけ受ける場合を紙へ書き出した。それぞれの利点と危険、途中で変更できるかどうかも並べる。
「正しい答えを聞いているのだけれど」
「あなたの答えを、私が先に決めないために黙っているの」
エリスは不満そうに眉を寄せた。端正な顔立ちで睨まれると迫力があるが、寝癖が一束だけ跳ねているため、リンファは怖がらなかった。
災害前のエリスは、四肢のある身体で走り、転び、誰かの手を握っていたはずだ。だが今のエリスは、その少女を記録でしか知らない。
「知らない自分へ戻る、というのも変な話ね」
「戻る必要も、戻らない義務もないわ」
その日の結論は出なかった。エリスは《保留》と書いた札を設計図へ置く。
以前の彼女なら、決められない状態を故障と呼んだだろう。今は、決めない時間も本人の選択に含めた。
翌朝、技術院から完全再生肢の輸送計画が届いた。エリスの同意欄は空白のままなのに、装着準備だけが進められていた。




