善意で作られた檻
技術院の中央展示室には、人間の四肢を模した白い義肢が並んでいた。
継ぎ目がない。駆動音もない。使用者の生体魔力を読み、失う前の身体を再現する。カインゼルはそれを《完全再生肢》と呼んだ。
「命名が簡潔すぎるわ」
「そこが気になるのか」とロイドが小声で言う。
性能試験の数値は圧倒的だった。感覚、温度、触覚、筋力。エリスの義肢が何年もかけて近づこうとしたものを、白い四肢は最初から備えている。
カインゼルは、特級技師資格の復帰と研究主任の席を提示した。さらに、エリス自身へ完全再生肢を無償提供するという。
「君はもう、故障や調整に時間を奪われなくていい。元の身体へ戻れる」
「元の身体を、誰が決めたの」
「災害前の生体記録が残っている」
「十二年前の私ね。今の私ではない」
エリスが拒むと、カインゼルは悲しむような目をした。
「恐怖が判断を曇らせている。急いで答えなくていい」
その言葉で、展示室が檻に変わった。
選ばせるように見えて、正しい答えは最初から一つしかない。拒絶は判断ではなく症状として処理される。
「私は、いま答えたのよ」
カインゼルは理解しなかった。理解できないのではなく、拒否を有効な選択肢として認めていないのだ。
退出しようとした瞬間、展示室の扉が閉じた。安全検査が終わるまで開かないという自動制御だった。
エリスは白い扉を見上げ、ため息をつく。
「善意で閉まる扉ほど、解除機構が必要ね」
彼女は義指の先から工具を一本出した。
「《超平和的どこでも開く君・礼節型》」
「ただの解錠具だ」とノアール。
「礼節型なのよ」
数分後、四人は正面玄関から堂々と出た。その背後で、完全再生肢の一本がエリスの歩き方を正確に再現し始めていた。




