止めたのは敵ではなく、私でした
記憶は、音から戻った。
高い警報音。白くなった歯車が同じ位置で噛み合い、外れ、また噛み合う音。誰かが逃げろと叫び、幼いエリスは装置の前で膝をついていた。
あの頃から彼女は、複雑な魔導具を見ると周囲の声が聞こえなくなる子どもだった。中心術式が暴走したときも、恐怖より先に構造が見えた。止める命令がない。ならば入れればいい。
幼い手足を接続端子へ触れさせ、自分の生体魔力を鍵にした。
《終われ》
装置は止まった。代わりに、固定命令が最も近い四肢へ流れ込んだ。
エリスは診察台の上で目を開けた。リンファが正面に座り、呼吸の数を一緒に数えている。記録を読んでいる途中で、彼女は工房の床へ崩れたらしい。
「私が止めた」
「ええ」とリンファは答えた。
「私が触らなければ、四肢は――」
「災害は装置の設計で始まった。あなたが止めたことで広がらなかった。順番を入れ替えないで」
カインゼルも、その点だけは明確に認めた。エリスが介入しなければ、療院街全体が白化していた可能性が高いという。
英雄だったと呼ばれても、何も軽くならない。幼い自分は世界を救うためではなく、目の前の装置を止めようとしただけだ。そして怖くて、腕を返してほしいと泣いた。
エリスは右義手を外す許可をリンファへ求めた。言い終えてから、自分の身体について許可を求めたことに気づき、首を振る。
「違う。外す。そばにいて」
「いるわ」
右義手を外すと、失われた腕の輪郭が冷気に触れた。エリスは目を逸らさなかった。
その夜、彼女は初めて、幼い自分を天才とも被験体とも呼ばず、ただ「怖かった私」と呼んだ。




