白化災害は、事故ではなかった
大型固定装置の正式名称は《恒常生体最適化機関》だった。
「名前だけなら悪くないわね」
「お前が褒めると不安になる」とロイドが言った。
装置の目的は、負傷者の身体を損傷前の状態へ戻し、その状態を維持すること。骨折も出血も痛みも、術式が定めた「正常」からの逸脱として修正される。戦場療院のために作られ、初期試験では多くの命を救っていた。
問題は、維持という命令に終わりがなかったことだ。
患者が成長しても、本人の魔力が変化しても、装置は登録時の状態こそ正しいと判断する。修正対象が一人から病棟、病棟から周囲の魔導具へ拡張され、異なる命令を持つ術式同士が共鳴した。変化を止めるため、素材は白く固定され、同じ動作を繰り返し始めた。
「事故ではないわ」
エリスは設計図の核心部を指した。
「設計どおりに動き続けた結果よ。止まれないことが、最初から組み込まれている」
カインゼルは否定しなかった。
「当時の私は、治癒を解除する理由など存在しないと考えた」
「治ったあとも?」
「再発の可能性がある」
「身体が変わることまで、故障扱いにしたのね」
沈黙が答えだった。
ノアールが設計変更履歴を調べ、災害直前に安全停止機構が外されていたことを見つけた。誤停止によって治療が中断される危険を避けるため、カインゼル自身が承認している。
エリスは図面を見つめた。完全を求め、停止を失敗と見なす思想。それはかつての自分にもあった。
記録の末尾には、災害発生から七分後、中心術式へ外部から命令が挿入されたとある。
命令は一語。
《終われ》
照合された生体魔力は、幼いエリスのものだった。




