私の腕を切った人
面会場所に選んだのは、王立療院の公開診察室だった。扉は二つあり、立会人を置ける。エリスが帰ると言えば、すぐに終わる。
カインゼル・ヴァルハルトは、十二年前とほとんど変わらない姿で待っていた。銀混じりの髪、静かな目、皺ひとつない白衣。エリスが技術院にいた頃、彼は師であり、救命者であり、決して逆らえない正解だった。
「大きくなったな、エリス」
「四肢を切った相手への第一声としては、採点に困るわね」
ロイドが息をのみ、ノアールの筆だけが止まらなかった。
カインゼルは当時の診断資料を差し出した。白化は第二段階まで進行し、四肢から体幹へ共鳴が移る直前だった。切除が数分遅ければ死亡、あるいは全身固定に至った可能性が高い。
リンファは資料を精査し、長い沈黙の後に言った。
「医学的には、切除以外の救命手段はなかったと思う」
エリスは胸の奥が冷えるのを感じた。間違った処置なら憎めた。技術不足なら責められた。だが正しかった。
「では、なぜ同意の記録がないの」
「時間がなかった」
「私が嫌だと言った記録は、なぜ消したの」
カインゼルは少しだけ目を伏せた。
「生き残った君に、あの恐怖を背負わせる必要はないと判断した」
その答えは、救命処置の正しさとは別の場所で、はっきりと間違っていた。
エリスは立ち上がった。義足の出力が乱れたが、ロイドは支えず、手だけを届く位置に置いた。彼女は自分で姿勢を戻す。
「今日は終わり。次に話すかどうかも、私が決める」
カインゼルは引き止めなかった。ただ、去る背中へ静かに告げた。
「君はあの日、大型固定装置を止めた。私はその理由を知っている」
閉じかけた扉の前で、エリスの足が止まった。




