↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/60

公式記録では、私は泣かなかったことになっている

非公開記録の最初の頁には、数字しかなかった。


白化率。魔力残量。切除開始時刻。投薬量。幼いエリスが何を言ったかは、処置に必要な情報ではないというように、整った文字が隙間なく並んでいる。


ノアールは原本と公式記録を左右に置き、削られた行へ印をつけた。公式記録では、エリスは意識不明のまま搬送され、緊急処置を受けたことになっている。非公開記録では違った。搬送時の意識は明瞭。質問への応答もあり、右腕を返してほしいと何度も訴えていた。


「泣いていたのね、私」


エリスが言うと、リンファは記録から目を上げた。


「泣かなかったことにされただけよ」


記憶がないなら、悲しくなかったのだと思っていた。耐えられたのだと、どこかで自分を褒めてさえいた。けれど実際の自分は泣き、嫌だと言い、それでも処置は進められた。


エリスの右義手がかすかに震えた。警告音が鳴る前に、彼女は自分で固定具を緩める。


「今日はここまでにする?」


リンファの問いに、エリスは首を振りかけて止まった。以前なら、反射的に最後まで読むと言っただろう。


「十分休んでから、続きを読む。私が決める」


トルヴァンが黙って茶を淹れた。ロイドは窓を開け、ノアールは記録板へ《本人の希望により中断》と書く。


夕刻、封印便の底から一枚の面会通知が見つかった。


差出人はカインゼル・ヴァルハルト。


《記録を読んだなら、会って話す用意がある》


場所も日時も、エリスが選べるよう空欄になっていた。それすら彼らしい配慮に見えたことが、エリスにはいちばん腹立たしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。