壊れた橋と、壊してはいけない義足
現場責任者は、橋を直せと言った。
負傷者の家族は、義足を壊さないでくれと言った。
エリスは二つの依頼を前にしゃがみ込み、白化した橋脚と、修理台に固定された古い義足を交互に見た。義足の使用者は採掘夫のマルク。装着部を傷めて歩けず、避難するにも担架が必要だった。
「橋がなければ資材班が戻れない。巻き上げ機を使えば一刻で仮設索道を作れる」
「でも、それを外したら義足の軸が直せないんです」
どちらも正しい。以前のエリスなら、より大きな人数を救う方を即座に選び、義足は後で高性能な新品に交換すると言っただろう。
だがマルクは首を振った。
「新品はいらない。こいつで娘の結婚式へ歩いていくって決めたんだ」
古い義足には細かな傷があり、膝の横へ幼い字で日付が刻まれていた。娘が初めて調整ねじを締めた日だという。機能だけなら代替できる。だが、その義足で歩きたいという本人の意思は代替できない。
エリスは橋の巻き上げ機を分解せず、周囲の壊れた運搬車を調べた。車輪は歪み、軸も折れている。だが三台分の軸受けを組み合わせれば、一度だけ荷重へ耐える滑車を作れる。
「耐久は?」
ロイドが尋ねた。
「計算上は十二往復。安全を見て六往復」
「資材班は五人だ」
「最後の一回は装置を回収するためよ」
ロイドは頷いた。帰還までを含める。白化地帯へ入って最初の故障で決めた基準が、早くも設計へ入っていた。
エリスは二本の義手を休みなく動かして部品を削り、トルヴァンが熱した金具を合わせた。リンファはマルクの装着部を処置し、本人へ選択肢を説明する。修理を待つか、担架で先に避難するか。マルクは義足と一緒に待つことを選んだ。
仮設索道は五人を渡し、六往復目で工具箱と滑車を回収した。最後の軸受けは着地と同時に割れたが、誰も谷へ残らなかった。
夜、エリスは元の巻き上げ機でマルクの義足を修理した。出力を上げず、使い慣れた癖を残し、膝の遊びだけを直す。
「もっと軽くも速くもできるわ」
「これがいい」
以前なら悔しかった言葉が、今は設計条件として聞こえた。
マルクが立ち上がり、娘に支えられて三歩進む。その姿を見届けた直後、白化した橋脚の奥で規則的な明滅が起きた。壊れたはずの古い装置が、同じ動作を繰り返している。
そして少し離れた岩陰に、黒い外套の人物が立っていた。手には記録板。エリスたちの判断を最初から最後まで、一言も漏らさず書き留めていた。




