説明書を読まない人でも使えるようにしてください
救助隊員は、説明書を読まなかった。
正確には、読む暇がなかった。旧坑道の入口では白い粉塵が渦巻き、奥からは支柱の軋む音が続いている。取り残された三人のうち一人は負傷し、もう一人は魔力酔いで受け答えが鈍い。
エリスは新しい簡易探査器を差し出した。三つのつまみ、二枚の表示板、折り畳み式の照準環を備えた自信作である。
「最初に位相基準を合わせ、次に周辺魔力との差分を――」
隊員は一番大きなつまみを回した。警報音が鳴り、表示板が真っ赤になった。
「待って、それは感度最大! 説明を最後まで聞きなさい!」
「坑道があと何分保つか分かるか!」
分からない。だから急いでいる。エリスは言葉を失い、隊員の厚い手袋と曇った防護面を見た。細いつまみは摘まめず、色の近い二枚の表示板は粉塵越しでは区別しづらい。
ロイドが探査器を取り上げた。「入口を探す」「危険なら戻る」。現場で必要なのは、まずその二つだけだと言う。
エリスは地面に工具布を広げた。三つのつまみを外し、内部の高精度補正回路を切り離す。青い大把手を一つだけ取り付け、手前へ引けば測定、離せば停止する仕組みにした。表示も廃止し、進める時は低い音、危険なら高い音が鳴るよう変更する。
「機能を七割も捨てたわ」
「命は残る」
十分後、《超直感式単一操作災害踏破羅針――》
「探査鈴でいい」
またしてもロイドに命名を削られたが、装置は動いた。隊員は説明を一度聞いただけで把手を握り、音を頼りに安全な壁際を進んだ。
坑道内で負傷者を見つけた時、二度目の問題が起きた。恐怖で混乱した若い調査員が、探査鈴を両手で振り回したのだ。精密な姿勢補正が残っていれば誤検出していたが、単純化した回路は把手が握られている間だけ周囲を測り続けた。
三人は全員、生きて戻った。
野営地で隊員が探査鈴を返し、「馬鹿でも使える」と褒めた。エリスは一瞬、侮辱された顔をしたが、やがて傷だらけの青い把手を撫でた。
「訂正して。説明を聞けない状況でも使える、よ」
「同じじゃないのか」
「まったく違うわ。使用者を馬鹿にする設計者は、設計の不足を使用者へ押しつけているだけだもの」
ロイドは少し笑い、正式な現場試験担当として工房の記録板へ自分の名を書いた。彼の役目は試作品を褒めることではない。焦り、疲れ、悪天候の中で使い、壊し、戻ってくることだった。
その夜、別の救助要請が届いた。今度は崩落した谷で、対岸に取り残された作業員を救う必要がある。
エリスは目を輝かせ、紙いっぱいに翼と噴射筒を描いた。
ロイドは図面を見て、深く息を吐いた。
「先に言っておく。救助用魔導具に必殺技はいらない」




