ロケットパンチは回収までが武器です
森へ入って最初に見つけたのは、横倒しになった荷馬車だった。
御者台の陰で、灰色の大狼が行商人へ飛びかかろうとしている。右脚を引きずるエリスには、駆け寄る時間がない。
「右腕射出機構、固定解除。照準補正、二度。名称は《迅雷爆砕式・帰還する鋼鉄の聖腕》」
「名前を言ってる場合か!」
脇から飛び出した男が大狼の爪を剣で受けた。焦げ茶の髪を短く切った冒険者――ロイド・フェルディナントだった。
エリスの右腕が肩から射出され、青い尾を引いて大狼の横腹へ直撃する。魔物は木の幹まで吹き飛び、動かなくなった。
行商人は助かった。問題は、そのまま森の奥へ消えた右腕だった。
「……帰還する、と言わなかったか」
「名称は完成形の設計思想を示すものです。現行試作機が必ずしも全機能を備えているとは限りません」
「戻ってこないんだな」
「はい」
ロイドは深く息を吐き、先に行商人の怪我と荷馬車の退路を確かめた。エリスが魔物の死骸へ近づこうとすると、彼は「まだ群れがいる」と止める。
その判断は正しかった。低木の奥から二頭目が現れたが、ロイドは荷車を盾に誘導し、エリスは左手だけで作った閃光筒を投げた。戦うより先に、行商人を安全な街道へ逃がす。
「あなた、魔物を倒すより先に人を逃がすんですね」
「普通はそうする。君は違うのか」
「私は同時にやります」
「右腕を失くしながら言うと説得力がない」
森を捜すと、射出義手は白く変色した魔石を握りしめ、倒木へ突き刺さっていた。指が一定の間隔で開閉を繰り返している。
エリスの顔から笑みが消えた。
「触れてもいいか」
ロイドは義手ではなく、エリスを見て尋ねた。
わずかな沈黙のあと、エリスは頷いた。二人で腕を引き抜き、接続部へ戻す。彼女はすぐに分解を始め、白い魔石が停止命令を受け付けず、最後の動作だけを保っていると見抜いた。
「回収機構だけでは足りません。固定命令を断つ独立回路も必要です。つまり次期型は《必ず帰る超絶忠義の右腕・改二》に――」
「まず短くしろ」
行商人は礼として、街道沿いに放棄された工房の話をした。所有者はおらず、屋根も床も危険で、誰も使いたがらないらしい。
エリスの灰褐色の瞳が、魔石を見たときとは別の光を宿した。
「屋根と床があるんですね」
「危険だと言ったんだが」
「直せる部分が多い、という意味です」
翌朝、ロイドが様子を見に来る約束をする前に、エリスは荷物を背負って歩き始めていた。右脚は応急回路、右腕は泥だらけ。それでも足取りだけは、追放された昨日より軽かった。




