白くなった歯車は、同じ夢を繰り返す
白化した制御輪は、夜通し同じ動きを繰り返した。
一回転して止まり、三秒後にまた一回転する。魔石は外してある。外部魔力も遮断した。それでも歯車の内部に残った術式が、破損直前の命令を再現し続けている。
「記憶しているみたいですね」とロイドが言った。
「記憶ではありません。術式の固定です」
そう答えながら、エリスは輪の動きを見つめた。技術院を追われた直後、右脚が最後の歩行命令を繰り返した現象と同じだ。
通常、術式は魔力供給を失えば止まる。白化した歯車は、周囲の微弱な魔力を集めて不足分を補っていた。新しい命令を受け入れず、最も強く刻まれた動作だけを正しい状態として維持している。
「壊れた部品が、壊れる前へ戻ろうとしている?」リンファが尋ねる。
「戻ろうとしているのではなく、変化を拒否しています。摩耗も停止も、すべて異常として排除している」
エリスは制御輪へ停止術式を重ねた。輪は一瞬止まり、次の三秒後にまた回る。強い術式で上書きすれば、周囲の白晶石がさらに広がった。
「力で止めるほど、固定が強くなる」
カインゼルから届いた同調石を思い出す。エリスの生体信号をすでに記録し、「君の身体はまだ完成していない」と記された手紙。あれも、失われる前の何かへ戻そうとしているのかもしれない。
エリスは上書きをやめた。
代わりに、制御輪の周囲へ複数の小さな逃がし線を刻む。固定された一つの動作を否定せず、余分な魔力を別の経路へ流す設計だ。
「《輪廻断絶・永劫回転終焉封印陣》」
「排魔線」とトルヴァン。
「せめて五文字ください」
逃がし線が光るたび、輪の回転は少しずつ遅くなった。完全停止まで二時間。破壊せず止めることには成功したが、白化部分は元に戻らない。
「治ったわけではないのね」とリンファ。
「はい。動作を終えられる状態へ移しただけです」
その言葉は、エリス自身にも向いていた。失う前の身体へ戻すことだけが治療ではない。痛みや不完全さを抱えたまま、次の動作を選べることも回復になり得る。
記録を取るため、エリスは右義手の警告器を接続した。黄色だった表示が、制御輪へ近づけた瞬間だけ白く変わった。
義手の指が勝手に開閉する。
一度。止まる。三秒後に、また同じ動き。
ロイドが排魔布をかけ、エリス自身が停止命令を出した。今回は止まった。
義手を外して内部を調べると、感応回路の隅に針先ほどの白い斑点が生まれていた。
「白晶石を入れた実験の残留では?」とリンファ。
「位置が違います。これは外部共鳴で新しく発生した」
白化は部品の中だけに留まらない。似た術式、似た生体信号を持つ機構へ伝播する可能性がある。
エリスは自分の義肢四本を隔離箱へ入れ、一本ずつ波形を測った。右腕、右脚、左脚には微弱な反応。左腕だけが沈黙している。
安堵するには早かった。
左腕の記録を拡大すると、反応がないのではなく、同じ波形を一万回以上、完全に重ねていた。
変化が見えないほど正確に、同じ命令を繰り返している。
エリスは白い線から目を離せなかった。
白化災害で失った四肢と、その後に作られた義肢。
二つは別々の出来事ではないのかもしれない。




