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第9話 モブ、騎士団長と戦う

「グラント卿」


 オルディス大司教の声が、少し硬くなる。


 グラント。

 聖王国騎士団長だ。

 ゲームではこいつも会話要員だった。

 騎士団長なのにスキップ対象だ。


 だが、騎士団長グラントは、俺の前で足を止めた。


「モブ殿」


 真面目な顔で、騎士団長がそう呼んだ。

 大聖堂の空気が少しだけ揺れた。

 俺は訂正しなかった。


「黒鉄の処刑騎士とガルムを討った腕、ぜひこの目で確かめたい」


 やはりそうだ。

 これは手合わせイベントだ。


 ゲームでは騎士団長と戦うことはない。

 だが、似た敵はいる。


 中盤に出る白銀騎士系。

 盾持ち。

 突き主体。

 ディレイ多め。

 初見殺しの蹴り派生あり。


 かなり嫌なタイプだ。

 そして雑魚だ。


 ボスじゃない。


「雑魚戦には興味がない」


 周囲の騎士たちがざわついた。

 騎士団長に向かって、下級兵が何を言っているのか。

 そういう空気だ。

 だがそういう意味ではない。


 グラントは怒らなかった。

 むしろ、少し笑った。


「失礼した。ご存じかとは思うが、私はグラント=ヴァルスハイト。聖王国騎士団の騎士団長を務めている。あなたほどではないが、実力は保証する」


 そういう問題ではないのだが。


「騎士はよくて中ボスだ」

「なんと?」


 このタイプの雑魚が、中ボスみたいな顔で道中出てくるパターンは多い。

 もちろん、あとあと雑魚として再登場するのだが。


 グラントは静かに剣の柄へ手を置いた。


「もちろん、本気で斬り合うつもりはない。ただの手合わせだ」

「再戦時に強化されるタイプか」

「再戦……?」


 だがそうか。

 認識を改める必要がある。


 ゲームでは戦うはずのない騎士団長。


 つまり。


「DLCか」

「でぃーえるしー……?」

「知らない追加敵だ」


 DLCで追加されるイベント。

 そして、そのイベントで行われる戦闘。


 そうだ。


 ならこれは。


「ボス戦だ」


 俺はゆっくりと錆びた長剣を抜いた。


「……ッ!」


 騎士団長が身構える。


 痛みが引いていく。

 疲労も飛んでいく。


 いや、消えたわけじゃない。

 痛みは後払いに。

 疲労はスタミナ管理に。


 俺の身体が、戦闘用に切り替わる。


 俺は剣をだらりと下げた。


「どうやらやる気になってくれたようだな」


 騎士団長も剣を抜いた。


「だが、その剣ではフェアじゃないだろう。おい!」


 騎士の1人が剣を持ってくる。

 ロングソード、通称ロンソだ。


 絶妙なリーチと振りの速さ。

 弱攻撃も強攻撃も安定。

 初心者はつべこべ言わずロンソを使え。


 だが。


 俺は錆びた長剣を軽く持ち上げる。


「これでいい」

「なんだと……?」


 錆びた長剣。

 つまり──


「これもロンソだ」

「ロン……?」


 それに今は縛りプレイ中だ。

 初期武器もステータスのうちだ。


 そもそも、俺のステータスはロンソの装備条件に足りない。

 威力が下がるし、スタミナ消費も増える。

 まあ、そういう縛りもあるが、今は違う。


「あいつ、さっきからナメやがって……」

「ボコボコにされちまえ」


 騎士たちの声が聞こえる。


 だが、ナメてるわけじゃない。

 ナメプと縛りは違う。

 縛りに余裕なんてない。


「……では、1本を取ったほうが勝ちでいいか」

「知らない」

「何?」

「そっちの負けは、お前が決めろ」

「どういう……」


 騎士団長が困惑している。


 関係ない。


 俺は錆びた長剣を構える。


「俺は、死んでもやる」


 さあ、死にゲーの始まりだ。

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