第48話 モブ、効率ルートを示す
地下通路へ向かう。
錆びた長剣が腰にある。
かなり落ち着く。
さっきまでより足取りが軽い。
いや、重い。戦闘後だ。腕も痛い。肩も痛い。
でも、初期武器はある。
かなり違う。
奥から金属音が一度、短く響いた。
それきり、音が止んだ。
「終わったか」
俺は言った。
「今ので、ですか?」
ユーフェリアが聞く。
「ああ」
「早すぎませんか」
「グラントだからな」
騎士団長は強い。
中ボスだ。
いや、大ボス候補だ。
切り札護衛は、よくて強雑魚だ。
ならグラントが勝つ。
たぶん。
俺たちが地下通路へ出ると、グラントが立っていた。
白狼の騎士団長。
簡易の騎士服。
剣は鞘に収まっている。
その足元に、黒い外套の護衛が倒れていた。
大剣も落ちている。
かなり強そうだった護衛。
だが、もう動かない。
戦闘不能。
かなり早い。
さすがだ。
そして、その少し奥。
ロウグが倒れていた。
横向きに、胸元を押さえたまま。
顔は青白い。
動かない。
こちらは戦闘不能ではない。
たぶん、死んでいる。
「こちらも終わった」
グラントが言った。
声は低い。
勝った声ではない。
イベント終了の声でもない。
重い声だ。
「ロウグ……」
ソウゴが足を止めた。
ユーフェリアも息を呑む。
ロウグには剣傷がない。
血もない。
首も胴もつながっている。
斬られて死んだわけではない。
それくらいは、見ればわかる。
グラントの攻撃ではない。
それでも空気は重い。
人が死んでいる。
悪役でも死んでいる。
気持ちのいい場面ではない。
「呪いだ」
俺は言った。
ソウゴがこちらを見る。
「呪い?」
「ああ」
俺はロウグの胸元を指した。
首にかかっている護符。
小さな護符だ。
黒く濁っている。
ただの汚れではない。
見覚えがある。
〈沈黙の護符〉。
喋りすぎたNPCが死ぬやつだ。
黒幕の名前を出そうとする。
余計なことを言おうとする。
そうすると呪いで死ぬ。
かなり嫌なイベントアイテムだ。
もちろん、ゲームでは名前が表示される。
現実では表示されない。
現実は不便だ。
だが、この流れは知っている。
「口封じイベントだ」
「口封じ……」
ソウゴの顔が険しくなる。
「つまり、ロウグの背後にまだ誰かいるってことか」
「ああ」
「なら、このままにはできない」
主人公らしい反応だ。
かなり主人公らしい。
だが、違う。
ユーフェリアもロウグの護符を見ていた。
「この護符も、ロウグ商会長の罪も、調べなければなりません」
正しい。
かなり正しい。
だが、やはり違う。
「それは主人公がやることじゃない」
「主人公……」
ソウゴが俺を見る。
「ああ」
「でも、放っておけない」
「放っておかない」
俺はグラントを見る。
「騎士団イベントだ」
「騎士団イベント……」
グラントは一瞬だけ困った顔をした。
だが、すぐに頷いた。
「モブ殿の言う通りだ」
理解が早い。
かなり優秀だ。
「この件は騎士団が引き取る」
グラントは倒れたロウグを見る。
「ロウグの罪も、商会の裏も、この護符も、必ず調べる」
「グラント卿……」
ユーフェリアがロウグを見た。
まだ迷いがある顔だ。
悪人だった。
それは確かだ。
だが、殺されていいかは別だ。
そんな顔だ。
「お願いします」
ユーフェリアは静かに頭を下げた。
「被害に遭った方々を、置き去りにしないでください」
「誓おう」
グラントは頷いた。
「必ず拾い上げる」
ソウゴは拳を握った。
地下通路の暗がり。
倒れたロウグ。
黒く濁った護符。
その全部を見て、息を吐く。
「俺の、やること……」
ソウゴは小さく言った。
そして、ユーフェリアを見た。
ユーフェリアは力強く頷く。
「はい。ソウゴ様には、ソウゴ様にしかできないことがあります」
いい。
かなりいい。
役割分担だ。
サブイベントを騎士団に渡す。
主人公はメインを進める。
分岐が整理された。
鍛冶屋がロウグを見下ろして、鼻を鳴らした。
「俺の店を荒らした分は、死んでも消えねえからな」
「消えない」
俺は言った。
「素材も戻ったが、店の修理は必要だ」
「そこかよ」
「そこも大事だ」
かなり大事だ。
鍛冶屋がいないと小盾が作れない。
でも鍛冶屋だけでは作れない。
店も、炉も、道具も必要だ。
現実の鍛冶は面倒だ。
「では、一度街に戻りましょう」
ユーフェリアが言った。
だが違う。
かなり違う。
「戻らない」
ユーフェリアの顔が青ざめる。
「……まさか、ここから周回ですか?」
「違う」
鉱山は遠い。
今から行くのは効率的じゃない。
なぜなら――。
「現実にはファストトラベルがない」
「ふぁすと……なんですか?」
ユーフェリアがため息をつく。
ジト目で見てくる。
「では、何ですか?」
「ああ」
ファストトラベル縛りでは「ついで」が大事だ。
ここから「ついで」にできること。
主人公のやること。
聖女のやること。
そして、俺のやること。
それはつまり。
「レガリアを取りに行く」
全員が、固まった。




