第43話 モブ、乱戦を制す
「倒す」
俺は革の小盾を構えた。
敵は8人。右に2人、左に2人、奥に3人。そのさらに奥に中ボス。
普通にやれば乱戦だ。
乱戦は事故る。
事故ると死ぬ。
だから、普通にやらない。
まず通路を狭める。
横道の出口。荷箱。樽。低い岩。
敵が3人並んで来られる場所では戦わない。
1人しか通れない場所で戦う。
局所的に1対1を作る。
それだけで乱戦ではなくなる。
「来い」
俺は前に出た。
先頭の護衛が剣を振り上げる。
速くはない。
だが、当たれば死ぬ。
錆びた長剣はない。
手にあるのは革の小盾だけだ。
最悪だ。
だが、入力は通る。
剣が振り下ろされる。
受けない。
受ければ死ぬ。
剣の判定が出る瞬間に、小盾を合わせる。
がん。
護衛の剣が弾かれ、体勢が崩れた。
こちらは崩れない。
パリィ成功。
その硬直に踏み込み、盾で顔を殴る。
ばしん。
弱い。
筋力2だ。
だが、護衛は大きく仰け反った。
鼻を押さえ、目に涙まで浮かべている。
……何だ。
今のダメージ量なら、そこまで怯むはずがない。
いや。
当たった場所か。
鼻。
〈終蝕のレガリア〉の雑兵には、こんな細かい部位反応はなかった。
少なくとも、鼻を殴ったから特別に怯む処理はない。
だが、現実では違うらしい。
確認する。
もう1発、少し下。
ドゴッ。
顎に入った。
護衛の目が揺れ、そのまま膝が落ちる。
……顎。
鼻は怯む。
顎は落ちる。
現実の人型は、部位ごとに反応が違う。
面倒だが、使える。
倒し切らなくていい。
邪魔になればいい。
崩れた護衛の体が、後ろの敵の足を止める。
詰まった。
これで敵は1列だ。
1人ずつ処理できる。
「なんだ、あれは!」
「小盾だぞ!?」
「剣を持ってねぇ!」
護衛たちが騒ぐ。
剣はない。
盗まれた。
ロウグは許せない。
だが、盾殴りでもダメージは入る。
弱いなら、倒す場所を選べばいい。
2人目が来る。
今度は膝を狙った。
ばしん。
護衛の足が崩れる。
……膝。
膝に当たると、立ち姿勢が崩れる。
なら、そのまま顎。
ドゴッ。
2人目が落ちた。
鼻は怯む。
顎は落ちる。
膝は崩れる。
覚えた。
「モブ!」
ソウゴの声。
横道の出口に、別の護衛が1人来ている。
ソウゴが剣を構え、ユーフェリアは後ろで祈りを構えている。
鍛冶屋は太い腕を鳴らしていた。
「正面だけだ!」
「ああ!」
護衛がソウゴに突っ込む。
ソウゴは剣で受けた。
少し押される。
だが、倒れない。
レベルが上がっている。
持久力も上がっている。
結晶亀の盾はない。
小盾もまだない。
それでも、前より死ににくい。
「ソウゴ様!」
ユーフェリアの祈りが淡く光る。
ソウゴの押し返す力が強くなった。
筋力アップか。
効いている。
鍛冶屋が横から護衛の肩を掴んだ。
「邪魔だ」
ぶん、と投げる。
護衛が壁に叩きつけられ、そのまま崩れた。
強い。
やはり鍛冶屋は強い。
「今の、俺より強くないか!?」
ソウゴが叫ぶ。
「たぶんそうだ!」
「認めるのか!?」
認める。
事実だ。
だが、ソウゴには主人公補正がある。
たぶん。
それに、前へ出すぎず、守るべき場所を守っている。
いい。
かなりいい。
これで3人目。
俺は前へ戻る。
4人目は短剣持ちだ。
速い。
だが、短剣は発生が速い代わりにリーチが短い。
なら、踏み込ませる。
俺は1歩下がる。
敵が詰める。
まだ。
もう少し。
ここ。
短剣が来る瞬間、小盾を合わせる。
がん。
弾いた。
追撃で盾を振る。
ばしん。
今度は手に当たった。
短剣が床へ落ちる。
……手。
手を叩けば、武器を落とすこともあるらしい。
現実は情報量が多い。
だが、一度わかれば使える。
短剣持ちが武器を拾おうと屈む。
顎が見えた。
ドゴッ。
そのまま崩れ落ちる。
短剣は拾わない。
初期武器ではない。
もう雑魚の処理法はわかった。
次の護衛が来る。
剣を弾く。
鼻を打つ。
怯んだところへ顎。
倒れる。
もう1人。
膝を打つ。
崩れたところへ顎。
倒れる。
倒れた敵はそのまま通路を狭める。
後ろの護衛は前へ出られない。
敵が多くても、同時に相手をするのは1人だけ。
乱戦にしなければいい。
「囲め!」
奥で中ボスが怒鳴った。
残った護衛たちが左右へ動き始める。
だが、もう遅い。
雑魚の倒し方はわかった。
俺は革の小盾を構え直した。




