第41話 モブ、盾を装備する
「盾を貸してくれ」
俺が言うと、グラントは少しだけ目を細めた。
「盾か」
「ああ」
今回は乱戦があるかもしれない。
乱戦は事故るから、盾が欲しい。
盾は武器ではない。
防具だ。
防具だが、防御力が上がるわけでもない。
なら、装備したことにはならない。
……無理だ。
どう考えても初期装備縛りに抵触する。
だが、縛りを破ったのは俺ではない。
ロウグだ。
しかもサブイベント。
なら、これは例外処理。
事故対応だ。
それに、錆びた長剣と比べて難易度が下がるわけでもない。
むしろ上がる。
なら、縛りをこっちに変えるか?
いや、ダメだ。
やはり初期装備は特別だ。
絶対に取り返す。
「どの程度のものが要る?」
「一番軽いものだ」
「一番軽い?」
グラントは俺の体を見る。
かなり正しい反応だ。
筋力2では、重い盾は持てない。
持てても使えない。
装備には必要能力値がある。
足りていなければ性能が出ず、盾で受けただけで体勢を崩され、スタミナも飛ぶ。
つまり死ぬ。
グラントは部下に命じ、いくつか盾を持ってこさせた。
鉄の円盾、木製の盾、革張りの小盾。
どれも騎士団の備品らしい。
「これはどうだ」
グラントが鉄の円盾を持ち上げる。
「重い」
「では、こちらは」
木製の盾もまだ重い。
「重い」
「……これか?」
最後は革張りの小盾だった。
丸くて小さく、中心だけ金具で補強されている。
カット率も低い。
受け値も低い。
だが、軽い。
「それだ」
「そんなものでいいのか?」
「これしか持てない」
グラントが一瞬黙った。
ソウゴもユーフェリアも黙る。
鍛冶屋だけが、ふん、と鼻を鳴らした。
「正直だな」
「装備条件は大事だ」
俺は革の小盾を受け取る。
これなら動ける。
ただし、受けてはいけない。
受ける盾ではなく、弾く盾だ。
「モブ、それで本当に戦えるのか?」
ソウゴが聞いてくる。
「普通には無理だ」
「無理なのか?」
「これでまともに受けたら死ぬ。だが、パリィは別だ」
「ぱりぃ?」
「受けるんじゃない。攻撃に合わせて弾く。相手の体勢は崩れるが、こっちは崩れない」
ソウゴが革の小盾を真剣な目で見る。
盾は守るだけではない。
そう覚えるのは悪くない。
ただし、初心者が真似るとほぼ死ぬ。
「見るだけにしろ。真似はするな」
「……わかった」
一瞬だけ間があった。
危ない。
これはあとで練習がいる。
グラントが革の小盾を見て言う。
「たしかに、小盾で攻撃を弾く技はあるな。だが、革の小盾でやるものではない」
「俺ならできる」
そういうスキルを持ってるからだ。
普通はできない。
グラントは深くうなずいた。
納得している。
「だが、攻撃はどうするのだ?」
「盾で殴る」
俺は両手で盾を振る。
盾にも攻撃力はある。
皮盾にも当然ある。
そして、素手や蹴りより、数値上は強い。
グラントは短く息を吐いた。
「なるほど。そんな戦い方は聞いたことがないが、剣を持たない以上、合理的ではあるな」
「剣を持たないのが、すでに非合理的だと思うのですが……」
「だが、縛りは保たれる」
「非合理どころか意味がわからないんです」
それからグラントは部下たちに配置を命じた。
騎士たちは俺が地図に示した水路、裂け目、暗がりの段差、それぞれの出口へ向かう。
見張るだけ。
踏み込まない。
逃げてきたら止める。
それでいい。
グラント本人は地下通路の出口を塞ぐ。
一番危ない場所で、逃走路でもあり増援路でもある。
商人は、だいたい強い奴を連れて逃げる。
そこはグラントに任せる。
騎士団長は強い。
かなり強い。
俺より強い。
乱戦でも、たぶん死なない。
「モブ殿」
別れる前に、グラントが言った。
「隠れ家の中は任せる」
「ああ」
「ソウゴ様と聖女殿を頼む」
「死なせない」
「頼もしいな」
グラントは頷き、別の道へ向かう。
いいNPCだ。
いや、人間か。
俺は革の小盾を腕に固定する。
軽い。
防御性能は低い。
まともに受ければ壊れる。
剣はない。
盾は借り物。
使えるのは小石と、革の小盾。
だが、十分だ。
俺たちは隠れ家の洞窟へ向かった。




