第38話 モブ、騎士団長に尋問する
ユーフェリアの治療で、腕の火傷は引いた。
まだ少しひりつく。
攻撃判定ではないからHPは減らないが、それでも痛い。
現実は面倒だ。
「もう無茶はしないでくださいね」
「必要ならする」
「嘘をつかないのは善いことではありますが……」
ユーフェリアがため息をついた。
俺たちは鍛冶屋を連れて、騎士団詰所へ向かう。
鍛冶屋は少しふらついているが、自分で歩けている。
ユーフェリアが何度も休ませようとしたが、首を振った。
「俺の仕事を盗られたんだ。寝てられるか」
騎士団詰所は、王都の中央通りにある。
白い石壁に白狼の旗が掲げられ、広い入口には2人の騎士が立っている。
門番が俺たちを見ると、すぐに姿勢を正した。
「ソウゴ様、ユーフェリア様。モブ殿も」
モブ殿。
称号が効いている。
名誉騎士のパッシブ効果だ。
「グラントに会いたい」
俺が言うと、門番は一瞬だけ鍛冶屋を見る。
怪我をして、煤にまみれ、服も破れている。
見れば何かあったとわかる状態だ。
「ただちにお伝えします」
門番が中へ走っていく。
待つ。
イベント前の待機時間だ。
現実にはスキップがない。
少しして、グラントが出てきた。なになぬう
今日は鎧ではなく簡易の騎士服だが、それでも大きい。
「何があった」
グラントの視線が、まず鍛冶屋へ向く。
次に俺たちを見て、最後に俺の腰で止まった。
錆びた長剣がないことに気づいたらしい。
「鍛冶屋が襲われた。盾と剣を盗られた」
グラントの表情が変わる。
「……中へ」
通されたのは、詰所の奥にある部屋だった。
机と椅子が置かれ、壁には剣と白狼の旗が掛けられている。
窓はある。
もし敵対したら、窓から逃げればいいか。
だが、今は味方確認が先だ。
「話を聞こう」
「これだ」
俺は白狼の留め具を机の上に置く。
小さな金具に、白い狼の意匠が入っている。
グラントの目が細くなった。
部屋の空気が固くなる。
「これは……騎士団のものだ」
ソウゴの肩がわずかに動く。
ユーフェリアも息を止めた。
鍛冶屋は黙っている。
グラントは留め具を手に取り、裏側から縁、留め跡まで確認する。
「ただし、現行品ではない」
「古い型か」
「ああ。10年以上前のものだ。今の騎士団装備には使っていない」
「俺もそう見た」
鍛冶屋が鼻を鳴らす。
「形は騎士団だが、古い。今朝あの店に落ちるようなもんじゃねえ」
「お前の店に落ちていたのか」
「ああ」
「騎士団の修理は?」
「今は受けてねえ。だから、おかしいって話だ」
グラントが少しだけ目を閉じる。
考えている。
追加情報のタイミングだ。
「もう1つある」
俺は焼け焦げた黒い革片を出す。
端には金具が残っている。
鍛冶屋が指で弾いた。
「こっちは俺が引きちぎった。ロウグ商会の護衛の肩当てだ」
グラントの目が鋭くなる。
「確かか」
「間違いねえ。この黒革に縁の金具、裏の打ち方も知ってる。前に何度も直した。あそこの護衛は力任せにぶつけるから、すぐ壊しやがる」
グラントの声が低くなる。
「ロウグ商会か……」
思い当たる節のある言い方だ。
「以前、ロウグ商会に古くなった備品の廃棄を頼んだことがある」
「廃棄だって?」
ソウゴが目を見開く。
「ああ」
「その中に、この留め具は……」
「当然、含まれている」
グラントは白狼の留め具を机へ戻した。
「繋がったじゃねぇか」
鍛冶屋が言う。
ユーフェリアは小さく息を吐き、ソウゴも握っていた拳を緩めた。
グラントへの敵疑惑は、かなり薄くなった。
分岐も安定した。
「だが、まだ確定じゃない」
俺が言うと、全員がこちらを見る。
「証拠はある。だが、盗まれた装備をまだ見つけていない」
「……そうだな」
グラントが頷く。
「この証拠だけで断じれば、ロウグにつけ込まれるだろう」
「面倒な分岐だ」
「分岐かどうかはわからぬが、面倒なのは確かだな」
理解が早い。
やはり騎士団長は優秀だ。
「じゃあ、どうするんだ?」
ソウゴが聞く。
「ロウグ商会へ行く」




