第36話 モブ、100万ポイントで重要ヒントを見つける
投擲用の石は、教会で補充できた。
備品庫の隅に袋で置かれている。かなりの量だ。
大司教が、補充まで予測して手配していたらしい。
話は長いが有能だ。
「それは何に使うものなのですか?」
ユーフェリアが備品係に聞かれている。
「ええと……」
「死なないためにだ」
「それじゃ伝わりません」
なぜだ。
正しいのに。
投擲用の石は補充した。
これで最低限の手札はある。
剣も盾もないが、石があればまだ詰みではない。
そのあと、少し休んだ。
ユーフェリアに強制されたからだ。
食事もして、ソウゴも寝た。
俺も目は閉じたが、寝たかどうかは微妙だ。
錆びた長剣が腰にない。
かなり落ち着かない。
初期武器がない夜は長い。
長すぎる。
翌朝。
俺たちは鍛冶屋へ向かった。
約束は明日。
つまり今日だ。
小盾も、錆びた長剣も、預けた鉱山結晶も戻ってくる。
かなり重要な日だ。
だが、路地に入ったところで空気が変わる。
煙と鉄、それから焦げた木の匂いがした。
鍛冶屋の扉が壊れている。
片側の蝶番が外れ、床には木片が散らばっていた。
炉の火は生きているが、店の中は荒れている。
「大丈夫か!」
「鍛冶屋さん!」
ソウゴとユーフェリアが駆け込む。
鍛冶屋は奥に座り込んでいた。
額に傷があり、腕にも打撲がある。
だが、目は死んでいない。
「騒ぐな」
鍛冶屋が顔をしかめる。
「傷は大したことねえ。頭を少し殴られただけだ」
「大したことあります!」
ユーフェリアがすぐに祈りを捧げる。
淡い光が鍛冶屋の額と腕を包み、血が止まっていく。
呼吸も安定している。
よかった。
鍛冶屋は生きている。
なら、次だ。
俺は作業台を見る。
ない。
小盾がない。
錆びた長剣がない。
結晶亀の大盾も、鉱山結晶もない。
全部ない。
「……初期武器がない」
腰にもない。
作業台にもない。
初期武器が消えた。
これは焦る。
かなり焦る。
装備欄があれば、こうはならない。
「すまねえ」
鍛冶屋が低く言う。
ユーフェリアの祈りを受けながら、悔しそうに歯を食いしばっている。
「俺の店で預かったもんを盗られた。盾も、剣も、結晶もだ。面目ねえ」
「鍛冶屋さんのせいではありません。襲った者たちが悪いのです」
「そうだとしても、預かったもんは預かったもんだ」
鍛冶屋が拳を握る。
やはり良い職人だ。
だが、今は謝罪より回収が先だ。
「誰にやられた」
「覆面だ。4、5人。いや、もっといたかもしれねえ。夜明け前だった」
「装備は」
「持っていかれた。大盾、作りかけの小盾、お前の錆びた剣。鉱山結晶もだ」
最悪だ。
本当に最悪だ。
ソウゴが拳を握る。
「きっとロウグ商会だ」
素直だ。
俺もそう思う。
「ソウゴ様」
ユーフェリアが静かに止める。
「お気持ちはわかります。ですが、決めつけるのは危険です」
「……すみません」
ソウゴは悔しそうに唇を噛む。
それでも、ちゃんと頷いた。
怒っていても止まれる。
死ににくい。
ユーフェリアが鍛冶屋を見る。
「何か心当たりはありませんか?」
「わからねえ。顔は隠してた。声も殺してた。手口は荒いが、足跡は消してやがる。道具も持ってきてた。素人じゃねえ」
ユーフェリアが荒れた店内を見回す。
「何か手がかりは……」
俺も店内を見る。
床には灰や鉄粉が広がり、壁際の棚は壊されている。作業台の周囲にも、焦げた木片や折れた釘が散乱していた。
ぱっと見では、手がかりらしいものはない。
だが、イベントなら何か落ちているはずだ。
血痕や足跡、破片、折れた刃。
商会の紋章入りの何か。
そういうものだ。
そして重要アイテムは光る。
光らなくても、近づけば選択できる。
だが、現実にはカーソルがない。
選択表示もない。
現実は不便だ。
なら、光らせればいい。
戦闘スキルではない。
火力は上がらないし、回避も楽にならない。
ボスの弱点が見えるわけでもない。
なら、縛り違反ではない。
探索補助だ。
たぶん。
俺はスキルツリーを開き、探索補助の取得候補を見る。
【アイテムハイライト:重要アイテムやレアアイテムを感知できるようになる。感知したアイテムは、種別に応じた光を発する。 100万ポイント】
相変わらず、とんでもないポイントだ。
だが、俺には100兆ポイントある。
100万使っても、減った気がしない。
【100万ポイントを消費しました】
【スキル:アイテムハイライトを取得しました】
視界が少し変わる。
意識を向けると、周囲の物の輪郭がわずかに浮いた。
壊れた釘も、焦げた木片も、鉄粉も、炭も光らない。
いらない。
探すのは、ロウグや襲撃者、盗まれた装備につながるものだ。
炉の横、割れた棚の下で、小さな金具が淡く光った。
「出た」
「何がですか?」
「重要アイテムだ」
「また変なことを……って、え?」
ユーフェリアが言いかけて止まる。
俺は棚の下から金具を拾った。
白い狼の意匠が入った、小さな留め具だ。
見覚えがある。
グラントの鎧や、騎士団の徽章で見た意匠だ。
ソウゴの顔が強張る。
「それは……」
「白狼の留め具だな」
鍛冶屋が手を伸ばす。
渡すと、片目を細めて金具を確認した。
「こいつは……騎士団のもんだ」
空気が止まった。




