第23話 モブ、死にゲーをやる権利に気づく
「暇に気をつけろ」
「あ、ああ」
周回は続く。
清浄の祠で休む。
敵が戻る。
小石を投げる。
敵を釣る。
ソウゴが落とす。
【結晶蝕者を撃破しました】
祠で休む。
敵が戻る。
敵を釣る。
ソウゴが落とす。
【結晶蝕者を撃破しました】
祠で休む。
敵が戻る。
敵を釣る。
ソウゴが落とす。
【結晶蝕者を撃破しました】
だんだん安定してきた。
レベルも2つ上がった。
【名前:ソウゴ】
【レベル:5】
【職業:継承者】
【生命力:8】
【持久力:7】
【筋力:7】
【技量:7】
【敏捷:8】
【精神:7】
【聖性:7】
【幸運:9】
【適性:剣/聖術/レガリア】
敏捷と幸運。
微妙だ。
ビルドはまだわからない。
だが運ビルドっぽい気がする。
ステータスはともかく、ソウゴの動きは、最初よりはマシになった。
走るタイミング。
背中に入る位置。
蹴る瞬間。
まだ雑だ。
かなり雑だ。
だが、雑でも通る。
この稼ぎ場は、そういう作りだ。
「モブ」
ソウゴが息を整えながら言った。
「少し、わかってきた気がする」
「ああ、いい傾向だ」
「そ、そうか?」
ソウゴが少し照れたような顔をした。
良い顔だ。
成長を感じている。
自分で操作を理解し始めている。
だからこそ危ない。
「だからこそ死ぬ」
「やっぱり死ぬのか……」
「成功した直後は、もっと早く、もっと上手くやりたくなる」
「それは……少しわかる」
「そして危険度は上がる」
「なるほど……な」
そう。
成功したあとが一番危ない。
失敗した直後なら慎重になる。
成功した直後は、工夫したくなる。
工夫は大事だ。
挑戦も大事だ。
だが、死にゲーでは、工夫の8割が死因になる。
死にゲーなら死んでもいいが、現実で死なれては困る。
だったら工夫を縛るしかない。
説明している間にも、清浄の祠の空気が揺れる。
敵配置が戻る。
坑道口に結晶蝕者が3体。
右にナイフ持ち。
左につるはし持ち。
奥に松明持ち。
いつもの配置だ。
俺は小石を取り出した。
だが、ソウゴが一歩前に出た。
「次は、俺が投げる」
そう来たか。
いい。
かなりいい。
自分で試そうとしている。
自分で考えようとしている。
それは成長だ。
そして、だいたい死ぬ。
「さっきも言ったが……」
「……わかってる。それでも、覚えたい」
ソウゴの目は逃げていなかった。
真剣な顔だった。
主人公らしい顔だ。
かなり主人公らしい。
だが、稼ぎ場では危険な顔でもある。
「自分で投げる場所を見つけたい。走るタイミングも、蹴る瞬間も、ちゃんと覚えたいんだ」
面倒だ。
かなり面倒だ。
だが、そうか。
こいつも今、死にゲーをやっているのか。
教えられた手順をなぞるだけでは足りない。
自分で試す。
失敗する。
何が悪かったのかを知る。
それで、少しずつ先へ進む。
それは、プレイヤーの権利であり、ソウゴの権利でもある。
ただし、死なれては困る。
主人公が死ぬと進行が詰む。
なら、俺が死なせなければいい。
「わかった。投げろ」
「モブ、ありがとう」
「俺は止めない」
「え?」
「その代わり、全部見る」
「全部?」
「死ぬパターンを全部だ」
ソウゴは、よくわかっていない顔をした。
ユーフェリアが不安そうにこちらを見る。
「モブ、本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫ではない」
「だっ……なら止めてください!」
「挑戦は必要だ」
ユーフェリアが少し驚いた顔をした。
そんな顔をするな。
別に良いことを言ったわけじゃない。
死にゲーでは、挑まないやつから詰む。
死ななくても、詰むのだ。
ただ、それだけだ。
俺は坑道口を見る。
死ぬパターンはいくらでもある。
投げる位置が内側に寄る。
つるはし持ちとナイフ持ちが同時に反応する。
走り出しが早すぎる。
崩れた石を踏む。
蹴った反動で足を取られる。
敵と一緒に落ちる。
落ちた敵の武器に引っかかる。
穴の縁で止まったつもりが、足場ごと崩れる。
全部ある。
全部、死ぬ。
だから全部見る。
「よし、頼むぞ」
「ああ」
ソウゴが小石を構えた。
狙いは悪くない。
右の木柵の手前。
ナイフ持ちだけを釣る位置。
小石が飛ぶ。
からん。
落ちた。
位置は問題ない。
ナイフ持ちだけが反応する。
ソウゴが走る。
少し早い。
だが、まだ許容範囲。
背後に入る。
蹴る。
結晶蝕者が前へ傾く。
足場の端で滑る。
落ちる。
【結晶蝕者を撃破しました】
「できた……!」
ソウゴが、少しだけ笑った。
達成感のある顔だ。
良い顔だ。
そして、危険な顔だ。
だが、俺は止めない。
止めないと決めたからだ。
ソウゴがこちらを見る。
「何か言いたげだな」
「いや」
俺は崩れた足場を見た。
「思い出してただけだ」
「何を?」
「俺が死んだときのことを」
ソウゴが少しだけ固まった。
「……縁起でもないな」
「かなり縁起がいい」
「どこがだ?」
「死んだ場所は覚えている」
ソウゴは意味がわからない顔をした。
それでいい。
今はまだ、わからなくていい。
「次も、俺が投げる」
「ああ」
ソウゴが次の小石を握る。
俺は止めない。
ただ、一歩前へ出た。
「モブ?」
ユーフェリアが俺の動きに気づく。
「何をするつもりですか……?」
「様子見だ」
ソウゴが小石を投げる。
からん。
音の位置は悪くない。
つるはし持ちだけが反応した。
ソウゴが走る。
早い。
早すぎる。
結晶蝕者の背後に入る。
蹴る。
結晶蝕者は落ちた。
だが、ソウゴの右足が崩れた石を踏んだ。
がらり。
足場が崩れる。
その瞬間、俺はもう跳んでいた。
「ソウゴ様!」
ユーフェリアが叫ぶ。
ソウゴの体が穴へ傾く。
俺は、その横に並んでいた。
「……って、モブまで!? なんで同時に飛んでいるのですか!?」




