第21話 モブ、ビルドに悩む
「お前、素性〈凡夫〉か」
「ぼんぷ……?」
素性。
ゲーム開始時に選ぶ、初期ステータスと初期装備の組み合わせだ。
騎士なら生命力と筋力が高い。
盗賊なら技量と敏捷が高い。
聖職者なら精神と聖性が高い。
そして〈凡夫〉は、全部が平均。
尖った強みはない。
それどころか、どのビルドでも無駄なステータスが出る。
魔法使いなら筋力はいらない。
戦士なら精神や聖性はいらない。
それなのに全部ちょっとずつある。
逆に初期装備はない。
素っ裸スタート。
素っ裸の凡夫。
名前も見た目も、馬鹿にしてるとしか思えない素性だ。
これだけ主人公らしいやつが凡夫だったとは。
王の因子を持ち、剣も聖術も扱える器の、凡夫。
まあ問題はそこではない。
幸運だけ1高い。
レベル2で幸運8。
初期値が全部7の凡夫なら、今のレベルアップ分が幸運に入ったことになる。
これはまずい。
かなりまずい。
「運に振られてる」
「運?」
「幸運だ」
「それは、いいことではないのか?」
「いいことだ」
俺は頷いた。
「完成すればな」
運ビルドは強い。
レアドロップ。
状態異常。
特殊武器。
噛み合えば壊れる。
だが、そこまでが遠い。
序盤は柔らかい。
火力も半端。
必要装備が揃うまで苦しい。
そして何より。
「初心者の運ビルドは死ぬ」
「死ぬのか……」
「特に死ぬ」
ステータス振り直し前提。
装備が揃ってから本番。
低レベル帯では事故率が高い。
それが運ビルドだ。
もちろん、まだ確定ではない。
幸運が1上がっただけだ。
自動ステ振りが運型を選んでいるとは限らない。
自動ステ振りは、完全な固定ではない。
ゲームでは、ビルドごとに上がりやすい能力値が決まっていた。
ただし、レベル帯に対して足りない能力値があれば、そこも候補に入る。
つまり固定ルートではなく、補正付きの抽選だ。
だから、幸運が上がっただけで運型確定ではない。
だが、少なくとも警戒する価値はある。
「モブ」
ソウゴが、小さく息を吐いた。
「俺は、強くなれるのか?」
「なれる」
「けど、凡夫だの運ビルドだの、不安になるんだが……」
まあその不安はもっともだ。
特に初心者はどんなビルドにすべきか悩む。
このビルドでは、目の前の強大なボスを突破できないのではないかと。
だが、レベルさえ上げれば何とでもなる。
プレイヤースキルを磨けばなおさらだ。
どんなビルドでも戦える自由度。
それが神ゲー〈終蝕のレガリア〉だ。
「初心者は、あれこれ悩む」
「初心者……」
「けど、悩むより周回だ。確実に強くなる」
RPGの基本だ。
「……!」
ソウゴは、少しだけ目を見開いた。
「じゃあ、悩むのは止めだ。モブ、頼む」
ユーフェリアが少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
だが、俺は坑道口を見る。
奥には、まだ結晶蝕者がいる。
稼ぎは始まったばかりだ。
ステ振りが手動ではない。
自動ステ振りのビルドも未確定。
しかも初回上昇が幸運。
なら、必要なのは最低限のレベルではない。
事故死を防ぐだけの余裕だ。
「予定変更だ。30周のつもりだったが」
ソウゴの顔が引きつった。
「さ、30周……?」
「あと100周」
ソウゴが完全に固まった。
ユーフェリアも固まった。
俺は小石袋から、次の小石を取り出す。
「もう一度だ」
からん、と。
小石が俺の指先で鳴った。




