第20話 モブ、〈凡夫〉に愕然
「ユーフェリア」
「はい?」
「ソウゴをレベルアップさせろ」
「れべる、あっぷ?」
ユーフェリアが首を傾げた。
ソウゴも同じ顔をしている。
どういうことだ。
現実ではそういうシステムはないのか。
ゲームでは、聖女が祈っていた。
ならユーフェリアも祈る必要がある。
「ユーフェリア」
「だから、なんですか」
「なんか、強くなるように祈れ」
「『なんか』とはなんですか!」
「〈継承者〉が強くなりますようにとかでいい」
「そんな雑な祈りがありますか!」
「じゃあ丁寧にでもいい」
「そういう問題ではありません!」
なぜだ。
なぜ祈るだけなのにしてくれない。
ユーフェリア以外のレベルアップ手段はかなり限られてしまう。
まずい。
「ユーフェリア様、お願いします」
ソウゴが言った。
だが、ソウゴに頼まれると弱いらしい。
ユーフェリアは、渋々といった様子で、胸の前で手を組む。
「……継承者たるソウゴ様に、進むための力を」
真面目だ。
かなり真面目だ。
雑な指示から、よくここまで神聖な感じにできるな。
「こんな雑な祈りで神聖な加護が降りるわけ――」
ユーフェリアが言いかけた、その時だった。
ソウゴの体が、淡く光った。
「え?」
ユーフェリアが固まる。
ソウゴも、自分の手を見下ろして固まった。
光はすぐに消えた。
だが、確かに変化した。
【ソウゴのレベルが上昇しました】
よし。
レベルアップは聖女経由。
これで仕様がわかった。
「できたな」
「できた、のでしょうか……?」
「できてただろ」
「今ので?」
「今ので」
「祈りが雑すぎませんか?」
「強くなれば何でもいい」
ユーフェリアが頭を押さえた。
「祈りを何だと思っているのですか……」
システムだ。
だが、これは言わない方がいい。
さすがの俺もわかる。
ともかく、流れはできた。
経験値を稼ぐ。
聖女に話しかける。
レベルを上げる。
つまり、ユーフェリアはレベルアップ担当NPCだ。
いや、人間か。
どちらにせよ、重要だ。
「これが……レベルアップ……?」
ソウゴが聞いてきた。
「たしかに、少し強くなった気がする」
「確認するまで信用するな」
「信用しないのか!?」
「体感は当てにならない」
強くなった気がする。
動ける気がする。
勝てる気がする。
そういう気分で突っ込むと死ぬ。
死にゲーでは、気分より数値だ。
「ステータスを表示しろ」
「ステータス?」
「能力値だ」
「どうやって?」
「念じる」
ソウゴは真剣な顔で目を閉じた。
しばらく待つ。
何も起きない。
「……出ない」
「なんだと?」
出ない?
ステータスが?
いや、ソウゴは主人公だ。
なら普通、ステータス画面が出るはずだ。
モブの俺にさえ出ている。
まさか。
「ポイントは?」
「ぽいんと?」
「能力値に振るやつだ。生命力とか筋力とか持久力とか」
「なんだ、それ……?」
俺は固まった。
知らない。
ポイントを知らない。
つまり、ステ振りできない。
いや、待て。
これはまずい。
非常にまずい。
レベルアップ作戦が根底から崩れる。
だが、ソウゴは「強くなった気がする」と言っていた。
なら、何かしらの処理は通っている希望はある。
まさか、自動ステ振りか?
ゲームには、自動ステ振り機能があった。
初心者向けの救済設定だ。
体力型。
筋力型。
技量型。
聖術型。
バランス型など。
選んだビルドに合わせて、レベルアップ時の能力値配分を自動で決めてくれる。
便利だ。
便利ではある。
だが、何が選ばれているかわからないのはまずい。
「モブ?」
ソウゴが不安そうに言った。
「何かまずいのか?」
「ステータスが見えない。ビルドも見えない」
「びるど……?」
「育成方針だ」
「俺の?」
「そうだ」
ユーフェリアが不思議そうに言う。
「ソウゴ様は〈継承者〉です。王の因子を持ち、剣も聖術も扱える器だと聞いています」
剣も聖術も扱える。
バランス型か?
だが、やはり数値が欲しい。
具体的な数値が見えない育成は危険すぎる。
「確認する」
俺はスキル欄を開いた。
【スキル検索:ステータス鑑定】
候補が並ぶ。
【ステータス鑑定:対象の能力値、成長傾向、状態を確認できる 100万ポイント】
高い。
相変わらず高い。
普通のスキル取得が10ポイントや20ポイントなのを考えれば、完全に狂っている。
だが、必要だ。
ソウゴが死ぬと進行が詰む。
育成方針が見えないのは危険すぎる。
「買う」
【ステータス鑑定を取得しました -100万ポイント】
小石袋よりは安い。
いや、小石袋が高すぎるだけか。
俺はソウゴを見る。
視界に、薄い文字が浮かんだ。
【名前:ソウゴ】
【レベル:2】
【職業:継承者】
【生命力:7】
【持久力:7】
【筋力:7】
【技量:7】
【敏捷:7】
【精神:7】
【聖性:7】
【幸運:8】
【適性:剣/聖術/レガリア】
俺は固まった。
オール7。
幸運だけ8。
まさか。
「お前、素性〈凡夫〉なのか」
「ぼんぷ……?」
ソウゴが間抜けな声を上げた。




