↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/57

第18話 モブ、範囲外まで逃げる

 小石が地面にぶつかり、音を立てた。

 からん。

 いい音だった。

 距離も出ているし、小石そのものもちゃんと飛んでいる。


 問題は、落ちた場所だ。

 小石が落ちたのは、坑道口の真ん中。

 残っている2体の結晶蝕者の反応範囲が、綺麗に重なっている場所だ。

 つまり、最悪だ。


 ナイフ持ちの結晶蝕者が、ゆっくりと首を動かした。

 つるはし持ちも、地面を引きずるように一歩踏み出す。

 2体同時に反応した。


 さらに、奥の暗がりで青白い結晶が揺れた。

 1体――いや、2体いる。

 音に直接反応したというより、他の雑魚と連動して動き出すパターンだ。

 こういうことはよくある。

 だから、初見は死ぬ。


「逃げるぞ」

「え?」

「逃げるぞ!」


 俺は即座に反転し、ソウゴの肩を掴んで引っ張る。

 ユーフェリアも腕を取って後ろへ下がらせる。


「ま、待ってくれ! 戦わないのか!?」

「戦わない!」

「でも、俺が失敗したなら、俺が――」

「失敗したから逃げるんだ!」


 背後で結晶蝕者たちが呻いた。

 硬い足音が響き、石を踏み砕く音とつるはしを引きずる音が重なる。

 さらに奥からも、足音が増えかけている。


 結晶蝕者は遅い。

 だが、遅い敵でも数がいると事故る。

 囲まれれば普通に死ぬ。

 むしろよくある。


「走れ!」


 俺たちは丘を下った。

 ソウゴが振り返ろうとする。


「見るな!」

「しかし!」

「見ると足が止まる!」


 初心者は追われると後ろを見る。

 そして地形に引っかかり、殴られて怯み、そのまま囲まれる。

 死ぬ。

 稼ぎ場でも、普通に死ぬ。


「ユーフェリア、祈るなよ!」

「祈っていません!」

「なら優秀だ!」

「褒め方が変です!」


 実際、優秀だ。

 ゲームでは、ピンチになると聖女が祈る。

 祈ると支援が入り、タゲがズレる。

 タゲがズレれば敵の位置も変わり、落下誘導もズレる。

 そして死ぬ。


 さらに、この廃鉱には聖気に反応する面倒なやつもいる。

 祈らない判断ができる聖女は、かなり助かる。

 いいNPCだ。

 いや、人間か。


 俺は背後の音を聞く。

 まだ追ってくる。

 まだ。

 まだあと少し。


「ここだ」


 俺は立ち止まった。

 坑道口から一定距離、追跡範囲の境目だ。


 結晶蝕者たちの足音が、そこで鈍る。

 ナイフ持ちの結晶蝕者が、伸ばした手を下げる。

 つるはし持ちも、つるはしを引きずったまま止まる。

 奥から出かけた結晶蝕者たちも、暗がりの中で動きを止めた。


 それ以上は進まない。

 やがて、結晶蝕者たちはゆっくりと背を向け、初期位置へ帰っていく。


 よし。

 追跡範囲も生きている。

 助かる。


「……戻っていく」


 ソウゴが呆然と言った。


「なぜ……?」

「そういう仕様だ」

「しよう……」

「敵には追ってくる範囲がある。そこから出れば帰る」

「なぜそんな……」

「設計が良いからだ」


 ユーフェリアが頭を押さえた。


「またツベコベ言ってる……」

「重要だ」


 かなり重要だ。

 敵が永遠に追ってくる場合もある。

 ハシゴを登って安心したところに、敵もハシゴを登ってくる。

 あの絶望も含めて死にゲーだ。


 だが、この場面は違う。

 ここで結晶蝕者が無限に追ってくるのは、ゲーム的にも世界観的にもおかしい。

 まあ、これは俺の感覚だが。


「モブ」


 ソウゴが小石を握った手を見つめている。


「すまない。俺が失敗した」

「そうだ」

「否定してくれないのか……」

「失敗したのは事実だ」


 ソウゴが少し落ち込んだ顔をする。

 だが、落ち込む必要はない。


「初見なら普通だ」

「普通?」

「ああ。初心者はだいたいあの辺に投げる」


 俺は坑道口の真ん中を指した。


「なぜなら、開発がそういうふうに誘導しているからだ」

「かいはつ……?」

「敵が見える。道の真ん中が空いている。投げれば釣れそうに見える。だから投げる」


 すると2体以上が反応し、奥のやつまで起きる。

 囲まれて、逃げ遅れる。

 死ぬ。


「それが洗礼だ」

「洗礼……」

「そうやって学んでいく」

「死んで学ぶのか?」

「普通はな」


 ソウゴが何とも言えない顔をした。


 ともかく、投げる場所は決まっている。

 音の範囲と敵の感知範囲が、ぎりぎり1体分だけ重なる場所だ。


「石を投げるんじゃない。音を置く」

「音を……?」

「ああ。敵を動かすための音を置く。そう考えろ」


 ソウゴは真剣な顔で頷いた。


 いや、待て。

 よく考えたら、ソウゴが石を投げる必要はない。


「俺が投げるて釣る。お前が落とせ」

「え? それでいいのか?」

「それでいい」


 工程を分ければいい。

 俺が釣って、タイミングを待ち、ソウゴが落とす。

 それで経験値は入る。


 初心者に全部やらせる必要はない。

 むしろ、分担した方がいい。

 こいつが死ぬと進行が詰むのだから。


 ソウゴは小石を握ったまま少し考え、首を横に振った。


「いや、投げ方も教えてくれ」

「なぜだ」

「いつまでも、モブに投げてもらうわけにはいかないだろ」


 主人公らしい。

 非常に主人公らしい。

 だが、面倒だ。

 かなり面倒だ。


 ただ、最終的にソウゴが自分で釣れるようになれば、俺が楽になる。

 俺が毎回石を投げる必要がなくなり、周回効率が上がる。

 悪くない。


「わかった」


 俺は小石袋に手を入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。