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第16話 モブ、160万ポイント使う

「石を99個。投擲用のだ」


 俺の要望に、大司教が困惑してる。


「投擲用? それに、100個ではなく?」

「ああ。99個だ」

「なぜです?」

「1スタックだからだ」

「すたっく……?」


 大司教が困惑した声を漏らした。


 説明してもいいが、長くなる。

 要するに、同じアイテムをまとめて持てる上限数だ。


「しかし、そんなものなら、外に出ればいくらでも拾えるんじゃないか?」


 ソウゴが言った。


「拾える石ならな」

「拾える石?」

「ああ。拾えるのは投擲用の石だけだ」

「……普通の石は?」

「拾えない」


 ソウゴが黙った。

 ユーフェリアも黙った。

 大司教も黙った。


 なぜ黙る。


 普通の石は背景だ。

 拾えるのは、拾得判定のある石だけ。


 これは常識だろう。

 いや、この世界では違うのか。


 面倒だな、現実。


「投擲用の小石、99個。承知しました。すぐに用意させましょう」


 さすが大司教。

 対応が早い。


 神官たちはすごい顔をしていたが、数人が慌てて走っていった。


 少し待つと、布袋に詰められた小石が運ばれてきた。


 よし。

 良いサイズだ。


 1スタック分の投擲用小石。

 これだけあれば、序盤はかなり安定する。


 だが、そこで神官の1人が、少し困った顔をした。


「あの、モブ殿。こちらを全てお持ちになるので?」

「そうだ」

「かなり重いですが……」


 布袋を持ち上げる。


 重い。

 普通に重い。


 いや、小石99個だ。

 当たり前だ。


 持てないほどではない。

 だが、このままでは戦えない。


 この袋を腰に下げて走る。

 ローリングする。

 剣を振る。

 狭い足場を抜ける。


 無理だ。

 絶対にどこかで引っかかる。


 ゲームならアイテム欄に入る。

 だが現実では、袋が揺れる。

 紐が食い込む。

 剣に当たる。

 足にぶつかる。


 そして重い。


 クソが。

 いや、違う。


 これは神ゲーだ。

 悪いのは現実側の処理である。


 なら、処理を変える。


 袋を、袋として持つから邪魔になる。

 袋を、インベントリとして扱えばいい。


 むしろこっちのほうが正しい。

 ゲームとしては。


 俺は視界の内側で、スキル欄を開いた。


 ————————————

 【スキル検索:インベントリ】

 ————————————


 候補が並ぶ。


 ————————————

 【無限収納:収納可能容量の上限をなくす】

 【小物インベントリ化:装備中の袋・ポーチを小型物品用インベントリとして処理する】

 【スタック管理:同種の小型物品をまとめて保持し、任意の順番で取り出せる】

 ————————————


 無限収納はやりすぎだ。

 初期ステータス縛りに抵触する。


 もちろん、容量はステータスと違ってあとから調整できる。

 ただ、小石99個のためにこれを取るのは違う。


 だが、小物インベントリ化なら許容できる。


 重いものは入らない。

 武器も防具も入らない。

 小石や鍵や薬瓶みたいな小物だけ。


 俺のスキルだから、俺が装備している間だけ。

 手放せばただの袋に戻る。


 なら許される。

 俺の中では。


 ————————————

 【小物インベントリ化:装備中の袋・ポーチを小型物品用インベントリとして処理する 100万ポイント】

 【スタック管理:同種の小型物品をまとめて保持し、任意の順番で取り出せる 60万ポイント】

 ————————————


 合計160万ポイント。


 普通のスキル取得が10ポイントや20ポイントなのを考えれば、完全に狂っている。

 小石を運ぶために払う額ではない。


 だが、俺には100兆ポイントがある。


 なら払う。


 ————————————

 【スキルを取得しました】

 【小物インベントリ化】

 【スタック管理】

 ————————————


 俺は布袋に手を当てた。


 ————————————

 【小石袋をインベントリ化しました】

 ————————————


 布袋が、淡く光った。


 次の瞬間、袋の膨らみ方が少し変わった。

 中に99個の小石があるはずなのに、見た目はただの小袋だ。


 要するに、容量のある異次元ポケットだ。


 手を入れる。

 指先に、ちょうどいい小石が触れる。

 取り出す。


 もう一度、手を入れる。

 また、ちょうどいい小石が触れる。


 よし。

 インベントリ化、成功。


「……何をしたのですか?」


 ユーフェリアが言った。


「ポイントを使った」

「ポイント……?」

「スキルポイントだ」

「もっとわかりません」


 神官の1人が、震える声で呟く。


「まさか……収納聖具……?」

「いや、ただの袋だ」


 俺は袋を軽く叩いた。


「インベントリにしただけだ」

「いんべん……?」


 説明しても無駄だろう。


 ユーフェリアが頭を押さえた。


「またツベコベ言ってる……」


 そこで大司教が、神官に何かを耳打ちされてこちらを見る。


「モブ殿。物資については、教会からの支援ですので、対価は不要です」

「対価?」

「ええ。その、名誉騎士の徽章を差し出そうとなさっているようですので」


 俺は手に持っていた〈白狼騎士の徽章〉を見た。


 いつの間にか取り出していた。


 なるほど。

 小石99個の相場がわからなかったので、売れるアイテムを出そうとしていたらしい。

 俺が。


「モブ!」


 ユーフェリアが叫んだ。


「なんてことを考えているのですか!」

「だが、装備しないし」

「そういう問題ではありません!」

「売値があるなら使える」

「ありませんし、使わないでください!」


 ユーフェリアが本気で止めてきた。


 まあ、支援物資が無料なら売らなくていい。


 俺は徽章をポケットに戻した。

 ユーフェリアが胸を撫で下ろす。

 ついでだ、ポケットもインベントリ化しておこう。


 大司教は笑っていた。

 だが、目は笑っていなかった気がする。


 まあいい。

 長い会話は不要だ。


 小石は手に入った。

 ソウゴの装備も更新した。


 準備完了。


「行くぞ」


 俺は大聖堂を出た。

 ソウゴとユーフェリアが慌ててついてくる。


 さあ、周回の始まりだ。

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