第15話 モブ、小石を欲しがる
半刻後。
教会宝物庫から運ばれてきたのは、白い布に包まれた装備一式だった。
いや、一式ではない。
三式あった。
神官たちが、恭しく布を解いていく。
一つ目。
分厚い白銀の全身鎧。
胸当ては大きく、肩当ても重そうで、兜までついている。
見るからに硬い。
二つ目。
銀糸で縁取られた鎖帷子と、薄い青色の外套。
それから、古びた護符が一つ。
三つ目。
白い布鎧と、祈祷用の腕輪。
防御力は低そうだが、聖属性に強そうな見た目をしている。
そう、選択式だ。
教会ルート序盤報酬。
継承者用支援装備。
プレイスタイルに合わせて選ぶやつだ。
重装。
中装。
聖術補助。
初見なら悩む。
だが、俺は悩まない。
「これだ」
俺は一つ目を指差した。
白銀の全身鎧。
最硬装備。
丸みを帯びたフォルム。
通称『マシュマロ』。
「え、これを?」
「ああ」
「かなり重そうだが……」
「防御は初心者の数値だ」
「初心者の数値?」
「上級者は敵の攻撃を避ける。だから防御を削って火力や機動力を盛る。だが、お前は初心者だ」
「……否定はできない」
「なら硬さが最善だ。マシュマロ一択」
「マシュ……?」
ソウゴには無敵ローリングがない。
つまり被弾は避けられない。
被弾する前提なら、防御は偉い。
死ななければ、次がある。
死ぬと進行が詰む。
つまり、硬い方がいい。
「ソウゴ様にこのような重い鎧を……?」
ユーフェリアが不安そうに言う。
「大丈夫だ」
俺は断言した。
「マシュマロは硬いからな」
「なぜか柔らかそうなのですが……」
神官たちが重装をソウゴに装着していく。
丸みを帯びた白いフォルム。
完全にマシュマロだ。
見た目は軽そうだ。
「……どうだ、ソウゴ」
俺が聞くと、ソウゴはゆっくりと顔を上げた。
そして、一歩踏み出そうとした。
がしゃん。
膝が沈む。
「重い……!」
ソウゴが、ほとんど動けていなかった。
もう一歩。
がしゃん。
さらに一歩。
がしゃん。
遅い。
ものすごく遅い。
ローリングだけじゃない。
ダッシュも無理だ。
たぶん階段で死ぬ。
いや、階段まで行けない。
白くて丸いからマシュマロと呼ばれているだけで、性能はただの鉄塊だ。
だがなぜだ。
ゲームではどんなに重い装備をつけていても、ある程度は動けていた。
現実だからか。
「……モブ」
ユーフェリアが、静かな声で言った。
怒っている。
これは怒っている声だ。
俺は少し考えた。
防御力だけなら正解。
だが、動けない防御力は死ぬ防御力だ。
「チェンジだ」
「早いな!?」
「動けない硬さは弱い」
「さっき硬さが最善と言わなかったか!?」
「動ける範囲で硬いのが最善だ」
「条件が増えた……」
神官たちが慌てて重装を外していく。
次に選ぶのは、二つ目。
銀糸で縁取られた鎖帷子。
薄い青色の外套。
古びた護符。
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【聖旅の鎖帷子】
【聖旅の外套】
【巡礼者の護符】
————————————
これでいい。
防御力はそこそこ。
重量は軽め。
状態異常耐性が少し上がる。
そして、〈巡礼者の護符〉には一度だけ致命傷を軽減する効果がある。
序盤ではかなり優秀だ。
派手さはない。
だが、死ににくくなる。
つまり、正解。
「ソウゴ、着ろ」
「今度こそ大丈夫なんだろうな?」
「たぶん」
「たぶん!?」
「さっきよりは確実にマシだ」
「比較対象がひどすぎる!」
ソウゴは戸惑いながら装備を受け取った。
神官たちが手伝い、装備を身につけていく。
灰色の外套だった見た目が、少しだけ主人公っぽくなった。
いや、元から主人公なのだが。
装備が整うと、それらしく見える。
「どうだ?」
ソウゴが慎重に歩く。
さっきよりは動けている。
剣も振れる。
走れる。
ローリングは、まあ、そのうちだな。
「動けるし、硬くなった」
「……感想がそれなのか」
「最高評価だ」
初期装備より死ににくい。
つまり最高だ。
ユーフェリアがソウゴの外套を整えながら、小さく微笑んだ。
「よくお似合いです、ソウゴ様」
「あ、ありがとうございます」
ソウゴは少し照れていた。
余裕があるな。
今から虚無周回に行くとは思えない顔だ。
「モブ殿」
オルディス大司教が穏やかに言った。
「こちらの装備でよろしいですかな」
「ああ。序盤なら十分だ」
「序盤……」
「次の装備更新まではこれでいい」
大司教は何か言いたそうだったが、言わなかった。
賢い。
長い会話はテンポを悪くする。
「では、行くぞ」
「今からですか?」
ユーフェリアが聞いてきた。
「今からだ」
「日も傾いています」
「稼ぎ場に昼夜は関係ない」
「あります。普通はあります」
「周回していればそのうち朝になる」
「なってはいけないのでは?」
そこで俺は、ふと気が付いた。
アイテムが足りない。
初心者のソウゴには必須のアイテムがあった。
俺はもう使わないから抜け落ちていた。
「そうだった」
「今度は何ですか」
ユーフェリアが、ジト目で身構えた。
失礼な。
俺はかなり真面目だ。
「支援物資がいる」
「支援物資、ですか」
大司教の表情が少し明るくなる。
「ええ。もちろんです。聖王国教会として、継承者様の旅に必要な物資は可能な限り用意いたしましょう」
「小石を99個」
大聖堂が静まり返った。
大司教が、初めて返答に詰まった。
「……小石、ですかな?」
「ああ。投擲用のやつ」
「投擲用の、やつ……?」
大司教が困惑の声をあげた。




