第12話 モブ、撃破報酬を得る
「それは、知っている」
「俺も知ってる」
上段斬りが落ちてくる。
速く、重い。
聖気をまとった騎士団長の必殺。
錆びた長剣で受ければ、普通は折れる。
腕ごと持っていかれる。
だから、しない。
落ちてくる白い剣の横腹に、錆びた長剣を置く。
タイミング、角度、姿勢。
条件を合わせる。
俺の筋力で、この一撃を弾けるはずがない。
だが、これは現実の剣術じゃない。
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【パリィ判定:作動】
【装備耐久値:作動】
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白い剣が、錆びた長剣に触れた。
甲高い音が、大聖堂に響いた。
火花が散る。
聖気が砕ける。
グラントの剣が、上に弾かれた。
パリィ成功。
「なん……だとッ!?」
グラントの胸元が、空いた。
今なら刺せる。
喉、心臓、脇腹。
どこでも届く。
だが、斬らない。
ボス戦だが、これは手合わせだ。
それに、深追いはしない。
欲張るやつから死ぬ。
俺は錆びた長剣の柄頭で、グラントの腹を軽く叩いた。
トン、と。
それだけ。
そして、すぐに後ろへ転がった。
ローリングだ。
無敵時間目当てではない。
ただの距離取りだ。
距離は大事だ。
特に人型はそう。
大聖堂が、静まり返っていた。
グラントは、剣を弾かれた姿勢のまま動かなかった。
やがて、ゆっくりと腹に触れる。
そこは、俺が叩いた場所だ。
「……今のは」
グラントの声が、かすれていた。
「私は、殺すつもりで振った」
周囲の騎士たちが息を呑む。
「だが、貴殿はそうではなかった」
グラントは俺を見た。
「私の負けだ。今度こそな」
大聖堂の騎士たちは言葉を失っていた。
ユーフェリアは、胸元で手を握りしめている。
ソウゴは、瞬きも忘れて俺を見ていた。
オルディス大司教は、細い目で俺の剣を見ていた。
「あの剣……」
騎士の誰かが呟いた。
「聖気を受けて、折れなかった……?」
「ただの錆びた剣ではないのか?」
「まさか、古き聖遺物……」
違う。
ただの初期武器だ。
折れないのは、100兆ポイントで装備耐久を固定したからだ。
訂正するのも面倒だった。
「……私は、雑魚、だったか」
グラントが剣を見つめて、呟いた。
でも違う。
かなり違う。
「雑魚じゃない」
「なに?」
「あんたは、ボスだった」
「ボス……?」
「ああ」
これは重要。
「楽しかったってことだ」
グラントがあっけに取られた表情をした後で、笑った。
「ふふ、よくわからん。だがそうか、確かに、楽しかった。そう、楽しかった」
グラントが噛みしめるように言う。
それから真剣な表情になって、俺に向き直った。
「モブ殿。貴方の実力は、この私が保証しよう」
やめろ。
長くなりそうだ。
会話イベントは楽しくない。
「これからもソウゴ殿とユーフェリア様を……いや、この国の未来を、頼む」
そう言って、グラントは剣を収めた。
終わった。
短い会話イベントだった。
短いなら悪くない。
そう思った直後、グラントが胸元の徽章に手をかけた。
嫌な予感がした。
まだ続くらしい。
「モブ殿。聖王国騎士団長グラント=ヴァイスハルトの名において、貴殿を聖王国騎士団名誉騎士に任ずる。我ら、全力を以って貴殿の道を切り開くことを誓う」
大聖堂が一瞬ざわめいた後、騎士たちがザッと整列して俺に敬礼をした。
まずい。
これは長い。
しかも、派生して別の会話イベントが増えそうだ。
そう思った瞬間、視界に文字が浮かんだ。
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【トロフィーを獲得しました】
【聖王国騎士団名誉騎士】
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俺は動きを止めた。
トロフィー。
そうか。
これは、そういうイベントだったか。
グラントは、自らの徽章を外し、俺へ差し出した。
「受け取ってほしい。騎士団に伝わる古い徽章だ。名誉騎士の証でもある」
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【装飾品:白狼騎士の徽章を入手しました】
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思い出した。
血の吐く思いをしてボスを倒し、ようやく得るトロフィーとアイテム。
それは、ただの会話イベントではない。
撃破報酬だ。
「不満か?」
グラントが尋ねた。
「いや」
俺は徽章を受け取った。
わずかに笑みがこぼれる。
「これでいい」
大聖堂がワッと沸いた。
俺は徽章をポケットにしまう。
歓声に困惑が混じった。
ユーフェリアが焦った顔で走り寄ってきて、小声で騒ぎ出す。
「モブ! つけて! つけて! 名誉なことですよ!」
「だが、初期装備じゃなくなる」
「またツベコベ言ってる!」
グラントは笑っていた。
「モブ殿らしい、な」
それから騎士たちへ視線を向ける。
「皆、騒がせてすまなかった! 場を整えろ。負傷者を下がらせ、聖堂の被害を確認する!」
騎士たちが、はっとしたように動き始める。
良かった。
後片付けイベントに移行した。
ムービーはない。
勝手に進むタイプだ。
そう安心した瞬間、ソウゴが一歩前に出た。
「モブ」
真剣な声だった。
さっきまでとは違う。
困惑でも、反発でもない。
完全に、イベントの予感だ。
しかも、ムービーありの。




