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『緋色の傭兵団の物語』「西方動乱編」  作者: 嵗(sai)
第二十一部:天秤脳崩壊と魔族の警鐘

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第6章:玉座の終焉、そして死神が呼ぶ次なる戦火

「はじめまして。ルイ・シャルル・ド・ヴァロア。君主の資格を持たぬ者。あんたらの負けだ。降伏しろや」


謁見の間を支配していた重苦しい沈黙の中で、俺の声は冷たく、そして容赦なく響き渡った。


玉座に座る国王ルイ・シャルル・ド・ヴァロアの手から、高価なワインの入った杯が滑り落ちる。カシャリ、という乾いた音が石床に響き、黄金の杯が虚しく転がった。周囲に控えていた側近や廷臣たちは、氷漬けにされたかのように息を呑み、シンの背後から謁見の間へと踏み込んできたハンス、漆、そしてクリシュ・アランの精鋭たちの圧倒的な殺気にただただ震えることしかできない。


沈黙を破ったのは宰相だった。彼は顔面を蒼白にさせながらも、かろうじてその痩せこけた体に宿る権威を絞り出し、声を上げた。


「……無礼者!何事だ!ここを何と心得るか!フランク王国、国王ルイ・シャルル・ド・ヴァロア陛下の面前であるぞ!貴様のような粗野な傭兵風情が、一体どのような身分で玉座の前に立っている!」


シンは冷ややかな眼差しを宰相へと向けた。その瞳は、眼前の男を人間としてではなく、ただの廃棄物として見ているようだった。


「知っているよ。国民に見捨てられ、自ら権威を地に落とした裸の王様。いや、愚か者。ルイ・シャルル・ド・ヴァロア……あんたはただの『愚者』だ」


「なっ……!」


シンのあまりに直接的な罵倒に、宰相は息を止めて絶句した。王国の最高位にある者が、このように公然と、しかも傭兵という格下の存在に面と向かって辱められるなど、あってはならない事態だったからだ。


「そしてお前は宰相か?いや、愚王を操り、国の血肉を吸い続けてきたただの税金泥棒だろう?」


シンが双刃を抜き放ち、その刃先を宰相の鼻先に突きつけると、男は悲鳴を上げて床へと崩れ落ちた。


「き、き、きさま……!近衛兵!近衛兵はどうした!この不届き者をたたき斬れ!」


「言いたいことはそれだけか。それしか言えんのか。全員を拘束しろ。抵抗する奴は殺して構わん!」


シンが合図を出すと、待機していたクリシュ・アランと特務隊が嵐のように動いた。王宮の儀仗兵たちが剣を抜こうと身構えるが、彼らの動きはクリシュ・アランの圧倒的な速度の前にことごとく封じられた。盾は砕かれ、鎧の隙間を的確に刃が通り抜ける。ものの数分もかからず、国王の周囲を護るべき近衛たちは床に伏せさせられた。


シンの手によって、ルイ・シャルルは玉座から引きずり下ろされる。国王の身を包む豪華な衣装が乱れ、髪が逆立つ。荒々しく縄を打たれる姿は、先ほどまでの威厳ある君主の面影を微塵も留めていなかった。


「な、何をするのじゃ!余は!余は国王ルイ・シャルル・ド・ヴァロアであるぞ!貴様ら、このような反逆が許されると思っておるのか!」


シンは冷めた目で、泥水をすするような格好の国王を見下ろす。「ああ。知ってる。だからなんだ?」


「このようなことは許されん!余はこの千年王国の王ぞ!余が許しても、神が許さん!」


その言葉を聞いた瞬間、シンの表情から感情が消え失せた。シンは腰の短剣を抜き放ち、ルイ・シャルルの頬に冷たい切っ先を当てる。「ひっ!」という情けない悲鳴が謁見の間に響く。


「神が許さん?じゃぁ早く神とやらに祈れや。俺が、俺たちが、そしてこの国で飢えに苦しむ庶民がいくら祈っても、何もしねぇ神なんぞに何ができる?救いなど、今のあんたには必要ない。自らの罪を、この地にいる民の苦しみの中で噛みしめろ」


ルイはぶるぶると震え、直視できずに目をそらす。そんな男をハンスが乱暴に突き飛ばした。


「城外に連れて行け。そして宰相、他の連中も一人残らず引きずり出せ」


ハンスと特務隊が彼らを連れ出す。扉が閉ざされ、静寂が訪れると、後ろ姿を見つめていたシンに漆が歩み寄った。


「シンさん、とりあえず終わりましたねぇ」


シンは漆を見つめる。「……まだだ。あいつが来る。これからが本番だ」


そう言い捨て、シンは謁見の間を足早に出て行った。



ルテティア外の激闘は、終わりを告げようとしていた。


シンが用意した戦車によって王国軍の兵士はおろか6色の騎士団も散々に蹴散らされた。騎士団は「卑怯な!」と喚き散らし、「騎士なら堂々と剣を交えよ!!」と怒鳴ったが、

「てめえらのお遊戯に付き合えってか?笑わせるぜ!」と傭兵に怒鳴り返される。


戦車によって陣形を散々に崩された後に緋色の傭兵団の騎馬兵とゲルマニアの黒狼騎士団によって大打撃をこうむり、クリスら弓隊によって馬を封じられ、クリシュ・アランとヤミル率いる歩兵隊による首狩りで指揮官を討たれる。その後から満を持して3国軍が面で王国軍の歩兵軍と騎士団を圧殺する。


3国軍がフランク王国軍の正面を受け持っている間に、ヤミル率いる傭兵団の精鋭が城壁へと忍び込み、防衛の要であった将軍の首を刎ねた。それを戦場全体に知らしめたが、誇り高き6色の騎士団はなおも抵抗を試みた。しかし、城壁の上にハンスたちが国王ルイ・シャルルを捕縛し、晒し者にしている姿が視界に入ると、彼らの士気は霧散した。


全ての抵抗は止んだ。フランク王国兵、そして騎士団は武装解除させられ、自分たちが蹂躙し、焼き払った戦場の後片付けを強いられた。


戦場が静けさを取り戻す中、シンはオットーと共に、アレク大公、アルフォンソ王、グレヴィル卿と合流した。


「損害は」シンの問いに対し、アレクが答える。


「1割以下。死者は思いのほか少ない。圧倒した、と言っていい。……だが、面白くない」


「アレク、うまく差配できなかったとふて腐るな。お前の悪い癖だ」

アレクはシンを睨みつける。だがシンは無視して、3人の君主・指導者たちに向けて語りかける。


「これでフランク『王室』は倒れた」


三人は黙して語らない。勝者の沈黙が、戦場の腥い空気に混ざり合う。


「だが、まだ終わっていない。南から奴が来る。オルレアン伯爵だ。奴を倒さない限り、俺の戦争は終わんねぇし、あんたらもこの国を安心して切り取れねぇ」


シンは一息つき、鋭い視線を投げた。


「対価を求める。オルレアンをぶっ潰すのを、手伝え。そしたら俺は消える。その後はあんたらに任せる。好きにすればいい」


アレク大公が地図を広げ、シンに問う。「シン。あの大型馬車、戦車と言ったか?あれを寄こせ」


「欲しけりゃやるさ。小回りは利かない、平たんな場所でしか活かせねぇ、足元が弱点で、1回の戦闘で馬はつぶれる、そんな欠陥品でよければな」


アレクの表情が険しくなる。「……」


「所詮は初見殺し。種が割れたら俺ならあれを簡単につぶせるぜ」


アレク大公は憮然としながらも、鼻で笑う。「ふん。要は使いようだろう。私なら、お前よりもっと活かしてやる」


「せいぜいツェンを使ってやりな。それと、フランク領についてだが、あんまし欲をかかない方がいいぜ。ここにはここで育った者たちがいる。上に立つ者が変わったからといって、下のもんがありがたがると勘違いするんじゃねぇぞ?」


俺はルテティアの街を指さした。開かれた門から、おそるおそる街の人々が出てきて、我々を見ている。城壁の上にも人々が登り、自分たちの王が引きずり出される様を無言で見つめている。


「あいつらはあんたらのこれからの行動を見ている。あんたらが国王ルイをどうするのか、この国をどうするのか」


ハンスと特務隊が、後ろ手に縛られ、猿轡をかまされたルイ国王と宰相を連れてきた。彼らを三人の面前に転がす。


俺は踵を返す。「後はあんたらで決めろ」


オットーとハンスを連れてその場を立ち去る。「次の戦いがある。次の戦いでは戦車は動かせねぇ。馬がないんでね。あんたらの力に期待する」


立ち去り際、シンは振り返る。「ああ、アレク。ツェンの奴を貸してくれ」


「ツェンを、か。返せではなく」


「貸してくれ。すぐ返す。次はオルレアンが来る。俺がオルレアンをぶっ殺す機会を作ってくれ」


遺された三人、アレク大公、アルフォンソ王、グレヴィル卿は、転がされているルイ国王と宰相を眺めていた。グレヴィル卿が沈黙を破る。


「アレク大公閣下。彼をどうしますか?」


「どう、とは?」


「アルフォンソ国王は賠償のみ。この土地、フランク領を欲していません。我々もエリザベス1世陛下はドルベス海峡沿岸ダンクが取れればそれでいいと言っています。アレク大公は何を、どこまでお望みですか?」


アレク大公はルテティアの方に目を向け、深い闇を湛えた瞳で呟く。


「……今は言わん。すべてはフランク王国を落としてからにする」


彼は立ち上がった。「シンに付き合う。オルレアンとやらを討ってからだ」


「そうですか。では、我々も準備しましょうか。その二人は拘束しておきましょう、戦いが終わるまで。ルテティアの人たちの話を聞くのは、その後だ」


三人はそれぞれに分かれた。だが、彼らの胸中にある欲望が、ルテティアの街を覆う不穏な雲をさらに濃くしていた。


「御屋形様、ルテティアが落ちました」


オルレアン伯爵は、その一報を聞いても表情一つ変えず、ただ一言つぶやいた。「期待はしていなかったが、やはりか」


クロウドが続く。「3国軍は野戦を敢行、その際特異な作戦を実行しています。こちらを」


クロウドが手渡す戦況記録を、オルレアンはゆっくりと読み込む。


「ふむ、確かに特異な作戦だな、クロウド。お前ならどう対処するか」


「報告に基づくと、この『戦車』なるものは、重く、小回りが利かない。騎馬より遅い。荒れた土地では使えない。であれば、進軍を止め、火を用いて焼き払うのが最善かと」


「概ね正しい。準備だけはしておけ。まぁ、次は使ってこないだろうがな」


「使ってきませんか?」


「あれは初見殺しだ。種が判ればもう使えん。お前のように対策は立てられる」


オルレアン伯爵は、窓の外の北端の平原を見つめた。既にオルレアン軍は領都を出発し、王都ルテティアまで3日の距離に陣を張っている。


オルレアンは思考を巡らせる。戦場に特異なものが出現する。これは二度目だ。一度目はゲルマニア統一戦争のゲルニーハーヘンで、アレク公国軍がバリスタを野戦で使った時。そして今回は、この鉄の馬車。


これらを考案した人間は、おそらく一人だ。ルテティアの戦場において戦争を主導したのは、三国の君主ではない……別の人間という報告がある。


忌々しい。ことごとく、計画に泥を塗る。


だが、次で終わりだ。そんな外連けれんが入る余地などない、圧倒的な暴力の盤面を今、作り上げているのだから。


「さあ、盤上の駒を動かす時が来た。シン……とやら。貴様がどれほどの策士か、この目で見極めてやろう」



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