第1章:【緋色の傭兵団副団長シンの手記より】
黒鉄期1738年■■月■■日
団の幹部たちを招集し、今後の方針を伝えた。皆、俺の決意を察している。オルレアンをぶっ殺す。奴が築き上げた栄光も野望も、すべてを踏みにじって汚泥に沈めてから、その首を掻き切る。それまでは死ねない。
黒鉄期1738年■■月■■日
復讐のための攻略の青写真が完成した。大がかりな策だが、この道以外に奴を引きずり下ろす術はない。必ず完遂する。
黒鉄期1738年■■月■■日
ハンスが『Z』の漆に渡りを付けたと報告してきた。翌日、漆が到着。2日間、密室で討議を重ね、互いの役割と行動基準を確認し合った。最後に金貨60枚を渡すと「もっと必要になるかもぉ」と笑う。ふざけた奴だ。だが、その仕事には期待している。
黒鉄期1738年■■月■■日
漆が帰還した。ブリタニアはシルカへ、ゲルマニアとフランクには漆の配下たちが蠢動を開始する。まずは情報収集と、相手を誘導するための巧妙な情報操作からだ。
黒鉄期1738年■■月■■日
アルバ家のアントニオのじいさんの元を訪れた。俺の望みを、そして何がしたいかを全て伝えた。しぶっていたが、結局はアルフォンソ王との面談を取り持つことを承諾してくれた。
黒鉄期1738年■■月■■日
ヒスパニア国王アルフォンソ・デ・レオンと面会。南方地域の支配権と、団への爵位を条件に協力を持ちかける。ハンスが徹底的に調べ上げたヒスパニア東部サントスの外道を全てぶちまけると、王は激高した。「借りは返す」――その約束さえあればいい。
黒鉄期1738年■■月■■日
陸軍大佐サラマンカが接触してきた。実質的なヒスパニア軍のトップだ。サントスの捕縛、軍の増強、団への軍資金提供と補給の確保について三者間で話し合う。
黒鉄期1738年■■月■■日
アルバの老人がやって来た。団への全面的な支援を申し出る。これで傭兵団の戦力増強は確実だ。足早に野営地へ戻り、準備を加速させる。
黒鉄期1738年■■月■■日
サントス領に特務隊を派遣。領民の不満を内側から煽る。オットーさんを派遣し、行商人に扮して崩壊しかけた集落間の交易を代行させる。並行して“南部への移住”という希望を噂として流し続ける。
黒鉄期1738年■■月■■日
領民の不満が限界を超えた。機は熟した。まずは3家族の脱走を手配し、成功を確認。オットーさんを使い、この成功例を領内に拡散させる。
黒鉄期1739年■■月■■日
独自に逃げ出した領民一家がサントスに見つかり、3歳の子供を含めた公開処刑が行われた。怒りに震えるオットーさんに、機が訪れるまで領民に「面従腹背」を徹底させるよう厳命する。報復の日は近い。
黒鉄期1739年■■月■■日
機が訪れた。団の歩兵隊と弓兵隊を動員し、領都と周辺集落の領民を根こそぎ逃がす。彼らが避難するルートの村々も道連れにさせた。領民の半数近くが消えたはずだ。
黒鉄期1739年■■月■■日
陸軍大佐サラマンカと合流。簡単な打ち合わせの後、サントス屋敷へ急行する。サラマンカから「殺さず生け捕りにせよ」と厳命される。知ったことかと思ったが、これは今後のヒスパニアを動かすための重要な駒だ。渋々了承する。
黒鉄期1739年■■月■■日
ロドリゴ・デ・サントスを捕縛。その場で首を落としたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えてサラマンカ大佐に引き渡した。
黒鉄期1739年■■月■■日
サントス、マトリード到着。アルフォンソ王は奴に面会せず即日広場にて絞首刑が執行された。
黒鉄期1739年■■月■■日
アルフォンソ王が貴族をマトリードに招集。サントス領で何が起きたかを詳らかにし、貴族の矜持たる『ノブレッサ・オブリガ』を問い質した。
黒鉄期1739年■■月■■日
漆に“ブリタニアとゲルマニアを動かせ”と伝令する。クリシュ・アランの伝承にある「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」。オルレアンを叩くための布石だ。
黒鉄期1739年■■月■■日
計画を次へ進める。ゲルマニアのアレク大公、ブリタニアのエリザベス1世宛ての書簡を、アルフォンソ王の権威を用いて送らせる。アレク宛の書簡の最後には「黙って出て来い」と書き添えておいた。
黒鉄期1739年■■月■■日
ドルベス海峡の港湾都市へ向かう。オットーさん、ハンスに加え、護衛に特務隊20、コーマックとその配下10。アルフォンソ国王とアルバ老ら一行も同行。
黒鉄期1739年■■月■■日
ドルベスでアルフォンソ、アレク、エリザベス1世と会見。初日は各国の状況共有で終わる。夜の宴でアレクに「君主への手紙ではない」と怒られた。「ああ書かなきゃ出てこねぇだろ」と言い返すと、「当たり前だ」とさらに激昂された。同行した黒狼騎士団団長アドルフィーネから釘を刺される。ガーブのために、二人で酒を捧げた。
黒鉄期1739年■■月■■日
会談2日目。俺はフランク攻略の青写真を3人にぶつけた。“俺が戦端を開くきっかけを作る”と告げる。アレクが「正統な理由がない」と難癖をつける。「どうした、冷徹な戦闘狂らしくねぇぞ」と鼻で笑うと、アレクもニヤリと返してきた。エリザベスには「大陸の橋頭堡、欲しくないのか?」と問い、同行の卿たちを黙らせた。
黒鉄期1739年■■月■■日
会談3日目。難航する交渉の中、俺は言い放った。「元凶はオルレアンだ。あいつだけは生かしておけない。世界を飲み込む毒だ」と。譲歩はしない。俺が決着をつける。それ以外は好きにしていいと条件を提示し、ようやく開戦合意に至る。
黒鉄期1739年■■月■■日
帰路。クリシュ・アランの三老人、カハル、フィンガーン、ローカンがついて来た。ガーブの墓に花を手向けたいと言う。好きにしろと伝えた。
黒鉄期1739年■■月■■日
途中で国王一行と別れる。アルバ老は野営地までついて来ると言い出した。好きにしろ。
黒鉄期1739年■■月■■日
野営地に到着。クリシュ・アランの三老人を見たコナ・フィニ・コーが悲鳴を上げて逃げ出した。ガーブの墓前に三老人を連れて行くと、彼らは静かに涙を流した。その後、弛んだ若手を捕まえて「鍛え直す」と言い捨てて連れ去っていった。
黒鉄期1739年■■月■■日
三老人が野営地を離れた。「あちこち回ってダン・ネルへ戻る」とのこと。何も起きなければいいが。
黒鉄期1739年■■月■■日
ノインが設計した重装馬車、参式戦車が完成。ゲルドさんが具現化した。6頭立てで最大20人乗り。鉄の箱に窓をつけ、そこから槍や矢で応戦する。運搬用、戦闘用、カタパルト搭載型と多岐にわたる。マリナが強く推したという給食専用車?必要か?
黒鉄期1739年■■月■■日
参式戦車を用いた訓練を開始。歩兵や騎馬との連携を含めた戦術をノインと思案する。
黒鉄期1739年■■月■■日
ヤミル、ハンスに戦闘の多様性を説明。イエーガー、エドワード、ヴィアナらを交えて戦術を磨く。
黒鉄期1739年■■月■■日
シルカがゼン・ムッサーシを連れて現れた。二人を墓前に連れて行く。夜、ゼンと飲む。「やめろ」と言うゼンに「俺の手はもう汚れている」と返した。罰が下るなら受けてやる。シルカの悲しそうな顔が胸に刺さったが、二人の協力を引き出した。
黒鉄期1739年■■月■■日
フランクで『蛇の眼』の暗闘が確認された。不満を持つ民衆を静かに煽っている。オルレアンの狙いが見えてきた。民を駒にして国を壊し、新たな王として君臨するつもりか。させねぇ。
黒鉄期1739年■■月■■日
漆を呼び、民衆を煽る『蛇の眼』の動きを監視させ、その誘導先を変節させるよう依頼。王政に不満を持つ同志に『ガーベラの印』を掲げ、蜂起の時を待てと伝えさせた。
黒鉄期1740年■■月■■日
フランク王国の状況は腐敗の極みだ。今ここで火を点ければ容易い。だが、俺が点ければオルレアンの思う壺だ。自分を律する。機会を待て。
黒鉄期1740年■■月■■日
漆から報告。ピレル山脈麓で領主同士の小競り合いが発生。深紅威信騎士団が介入し、両軍を根絶やしにしたらしい。「武器を持つから争う」という正論は、やがて騎士団自身を焼き尽くすだろう。
黒鉄期1740年■■月■■日
フランク国内で小規模な騒動が頻発。半年で22か所。すべて徴税が原因だ。民衆の怒りは臨界点に近い。時期はすぐそこだ。
黒鉄期1740年■■月■■日
全員を招集し、いよいよ始まると告げる。ヴィアナ・デル・アギラを去る前に、最後にもう一度ガーブの墓へ。みんな別れがたいのか、花が絶えない。
黒鉄期1740年■■月■■日
出立の朝。全員の前に立ち、叫んだ。「ガーブの仇を討つ。手を貸してくれ」。誰一人反対する者はいなかった。新しい団章『ガーベラの印』を披露する。ガーブの愛刀を打ち直して作った、俺たちの誇りだ。
黒鉄期1741年■■月■■日
フランク王国王都ルテティアで、ついに民衆が暴発した。王国は民衆虐殺という最悪の悪手を打った。「ルテティアの大虐殺」か。待ってろオルレアン、お前の野望が最も高揚し、息が上がる直前に、地獄の底へ突き落としてやる。
黒鉄期1741年■■月■■日
アルフォンソ王が各所へ宣戦布告。行動開始だ。俺たち「緋色の傭兵団」もフランクへ向けて進軍する。
(※黒鉄期1752年、俗に「北の回廊」と呼ばれる商業路のフランク側にある古い町で見つかった手記から抜粋)




