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『緋色の傭兵団の物語』「西方動乱編」  作者: 嵗(sai)
第十九部:亡国の英雄と鉄の牙

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第9章:狼の慟哭

俺たちは街道をひた走る。足の遅い団員たちを残して、俺、ハンス、特務隊の幾人か、コナル、フィニアン、コーマックが港町の広場に向かって走る。広場に群衆が集まっている。奥に台が見える。処刑台か?


ガーブ!ガーブが杭に縛られている!横に太った豚野郎がガーブに何かささやいてやがる。その豚が2、3歩下がる。「刑を執行する!」と言って松明を手にした。


やめろやめろやめろおおおお!!!!!


俺たちの接近に黒服たちが気付き、剣を抜いて近づいてくる。


俺は双刃を抜く。「邪魔するなぁあああ!!!」一人切り、二人切る。道をあけろおお!!


俺、ハンス、コナル、フィニアン、コーマックは黒服と切り結び広場に近づいてゆくが、まだ遠い。


「敬虔なる信徒たちよ!大司教たる我は神に代わり、この魔女に天罰を下す!」




豚は



  松明を




   ガーブに向けて






         投げつけた。







時が止まる。「ガァァァブ!!!!」俺は叫んだ。


ガーブが気付いたのか、偶然か、目が合った。




ガーブの口が動く。「シ、・・ン、・・・、ご、め、ん、・・・、あ、り、が、と・・・」




なんで笑えるんだ!!




ボウッ!!!ガーブが炎に包まれる。




「ガァァァブ!!!!」

前へ!前へ!まだだ!まだ間に合うはずだ!!攻めて来る黒服たちを切り飛ばし一歩一歩近づく。広場の群衆が俺たちに気づいた。目の前で腕が、首が斬り飛ばされる光景に、一斉に恐慌に陥り右往左往し始め、広場は大混乱になる。


(遅い、遅い、遅い!ちきしょう!走れ走れ走れぇええ!!)


俺は処刑台、ガーブの元にひた走る。目の前にゲラゲラと笑う豚がいた。双刃を振るう。頭、首、胴、脚、「は?」豚の末期の声など聞こえちゃいねぇ!双刃を投げ捨てる。燃え盛るガーブに飛びつく。力ずくで杭を折り、倒す。はたいて火を消そうとする。ハンスが追い付いた。上着を脱いで火を叩く。コナル、フィニアン、コーマックもやって来た。フィニアンは近くにあった水桶で水をかける。


「火を消せ!早く火を消せぇええ!!」


ハンスが俺をガーブから引っ張り離す。「離せハンス!ガーブが!」コナル、フィニアン、コーマックが水桶の水をガーブにかける。何回も、何回も……。


港街の広場に静寂が戻った。木の燃えた燻る匂いが周りに立ち込める。


火は消し止められた。だが……。


俺は目の前に、真っ黒になったガーブが、いた。


俺は膝から崩れ、四つん這いになってガーブに近づく。


「ガーブ…、ガーブッ?ガーブ!!!」


「嘘だろ?こんな、こんなこと……あり得ない」俺は火傷した手でガーブを触ろうとした。


何か、がそれを拒む。涙があふれだした。視界が滲む。「うそだろ……ガーブ、返事してくれ……」


ハンスが俺の肩に手をかける。俺は払いのける。ハンスが俺の肩にまた手をかけて俺に言った。


「シン……信じられないが……まだ息がある……」


その言葉に俺は前を向く。かすかに、かすかに聞こえる。「ヒューッ、ヒューッ」生きてる?生きてるのか!


また一緒に道を歩める!


「シン……止めを」俺はハンスを見る。「ハンス、何を、何言ってやがる!生きてるなら助ける方法を!」


ハンスが俺を強く揺さぶる。「シン!よく見ろ! ガーブの!……ガーブの状態を…」


俺はゆっくりと頭をガーブに向けた。炎にあぶられ、あの緋色の髪は燃え落ちた。眼窩に瞳はない、顔は皮膚が溶け落ち、片方の腕はもげている。全身が黒く、あの紅い髪も瞳も、躍動的なガーブの体の何もかもが失われている。かろうじて生命いのちを永らえている何かが、目の前にいた。


「この状態ではもうだめだ。苦しみを長引かせる訳にいかないだろ?だから……シン。彼女に……」


「言うな!!」「認めない!!」


「シンがやらないのなら、俺がやる」コナルが剣を手にガーブに近づく。


「ガーブに触るな!」俺はコナルを殴りつける。


「シン君。これ以上ガーブさんを苦しめちゃだめだ……苦しみを止めてあげてください。それがシン君の務めです」後ろからオットーさんの声が聞こえた。俺はオットーさんを見る。オットーさんも泣いていた。


「……だめ、なのか?本当に、もう、だめなのか?」


「助ける方法は、ないのか?コナ、フィニ、コー。クリシュ・アランの秘術でこう、パーっと治す方法、ないのかぁ!!」


「シン君……ガーブさんを楽にしてあげてください」


ガーブを見る。苦しい息遣いが続いている。時々痙攣している。


「本当に、もう、だめなのか、ガーブ……」


俺は短剣を抜く。ガーブに近寄る。「ガーブ……ごめん、間に合わなくて……ごめん、ごめん……」


俺はガーブの心の臓辺りに短剣を立てて


押し込んだ。


ガーブはその時、ピクリと体を震わせ、ふーっと息を吐いて、止まった。


誰もが口を閉ざしていた。



「う、う、う、」誰かが泣いている。俺だった。



「うぅぅううううう!!ガァァァァブ!!!!!!―――――――――」


俺は声にならない叫びを上げていた。






















「ガァァァブ!!!!!!!!!」






それは、狼の慟哭だった。





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