第9章:狼の慟哭
俺たちは街道をひた走る。足の遅い団員たちを残して、俺、ハンス、特務隊の幾人か、コナル、フィニアン、コーマックが港町の広場に向かって走る。広場に群衆が集まっている。奥に台が見える。処刑台か?
ガーブ!ガーブが杭に縛られている!横に太った豚野郎がガーブに何かささやいてやがる。その豚が2、3歩下がる。「刑を執行する!」と言って松明を手にした。
やめろやめろやめろおおおお!!!!!
俺たちの接近に黒服たちが気付き、剣を抜いて近づいてくる。
俺は双刃を抜く。「邪魔するなぁあああ!!!」一人切り、二人切る。道をあけろおお!!
俺、ハンス、コナル、フィニアン、コーマックは黒服と切り結び広場に近づいてゆくが、まだ遠い。
「敬虔なる信徒たちよ!大司教たる我は神に代わり、この魔女に天罰を下す!」
豚は
松明を
ガーブに向けて
投げつけた。
時が止まる。「ガァァァブ!!!!」俺は叫んだ。
ガーブが気付いたのか、偶然か、目が合った。
ガーブの口が動く。「シ、・・ン、・・・、ご、め、ん、・・・、あ、り、が、と・・・」
なんで笑えるんだ!!
ボウッ!!!ガーブが炎に包まれる。
「ガァァァブ!!!!」
前へ!前へ!まだだ!まだ間に合うはずだ!!攻めて来る黒服たちを切り飛ばし一歩一歩近づく。広場の群衆が俺たちに気づいた。目の前で腕が、首が斬り飛ばされる光景に、一斉に恐慌に陥り右往左往し始め、広場は大混乱になる。
(遅い、遅い、遅い!ちきしょう!走れ走れ走れぇええ!!)
俺は処刑台、ガーブの元にひた走る。目の前にゲラゲラと笑う豚がいた。双刃を振るう。頭、首、胴、脚、「は?」豚の末期の声など聞こえちゃいねぇ!双刃を投げ捨てる。燃え盛るガーブに飛びつく。力ずくで杭を折り、倒す。はたいて火を消そうとする。ハンスが追い付いた。上着を脱いで火を叩く。コナル、フィニアン、コーマックもやって来た。フィニアンは近くにあった水桶で水をかける。
「火を消せ!早く火を消せぇええ!!」
ハンスが俺をガーブから引っ張り離す。「離せハンス!ガーブが!」コナル、フィニアン、コーマックが水桶の水をガーブにかける。何回も、何回も……。
港街の広場に静寂が戻った。木の燃えた燻る匂いが周りに立ち込める。
火は消し止められた。だが……。
俺は目の前に、真っ黒になったガーブが、いた。
俺は膝から崩れ、四つん這いになってガーブに近づく。
「ガーブ…、ガーブッ?ガーブ!!!」
「嘘だろ?こんな、こんなこと……あり得ない」俺は火傷した手でガーブを触ろうとした。
何か、がそれを拒む。涙があふれだした。視界が滲む。「うそだろ……ガーブ、返事してくれ……」
ハンスが俺の肩に手をかける。俺は払いのける。ハンスが俺の肩にまた手をかけて俺に言った。
「シン……信じられないが……まだ息がある……」
その言葉に俺は前を向く。かすかに、かすかに聞こえる。「ヒューッ、ヒューッ」生きてる?生きてるのか!
また一緒に道を歩める!
「シン……止めを」俺はハンスを見る。「ハンス、何を、何言ってやがる!生きてるなら助ける方法を!」
ハンスが俺を強く揺さぶる。「シン!よく見ろ! ガーブの!……ガーブの状態を…」
俺はゆっくりと頭をガーブに向けた。炎にあぶられ、あの緋色の髪は燃え落ちた。眼窩に瞳はない、顔は皮膚が溶け落ち、片方の腕はもげている。全身が黒く、あの紅い髪も瞳も、躍動的なガーブの体の何もかもが失われている。かろうじて生命を永らえている何かが、目の前にいた。
「この状態ではもうだめだ。苦しみを長引かせる訳にいかないだろ?だから……シン。彼女に……」
「言うな!!」「認めない!!」
「シンがやらないのなら、俺がやる」コナルが剣を手にガーブに近づく。
「ガーブに触るな!」俺はコナルを殴りつける。
「シン君。これ以上ガーブさんを苦しめちゃだめだ……苦しみを止めてあげてください。それがシン君の務めです」後ろからオットーさんの声が聞こえた。俺はオットーさんを見る。オットーさんも泣いていた。
「……だめ、なのか?本当に、もう、だめなのか?」
「助ける方法は、ないのか?コナ、フィニ、コー。クリシュ・アランの秘術でこう、パーっと治す方法、ないのかぁ!!」
「シン君……ガーブさんを楽にしてあげてください」
ガーブを見る。苦しい息遣いが続いている。時々痙攣している。
「本当に、もう、だめなのか、ガーブ……」
俺は短剣を抜く。ガーブに近寄る。「ガーブ……ごめん、間に合わなくて……ごめん、ごめん……」
俺はガーブの心の臓辺りに短剣を立てて
押し込んだ。
ガーブはその時、ピクリと体を震わせ、ふーっと息を吐いて、止まった。
誰もが口を閉ざしていた。
「う、う、う、」誰かが泣いている。俺だった。
「うぅぅううううう!!ガァァァァブ!!!!!!―――――――――」
俺は声にならない叫びを上げていた。
「ガァァァブ!!!!!!!!!」
それは、狼の慟哭だった。




