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『緋色の傭兵団の物語』「西方動乱編」  作者: 嵗(sai)
第十九部:亡国の英雄と鉄の牙

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第8章:追跡の果て、魔女狩りの狂気

一方その頃のシンたちは、まだ痕跡を見つけられずにいた。クリシュ・アランは四方八方に飛び、痕跡を探ったが何も見つからず戻ってきた。皆イライラしている。こういう時、魔法のようなものでぱっと見つけてささっと助けに行けたら……いけねぇ、夢みたいなこと考えるんじゃねぇ!ちゃんと現実を見据えて適切な行動をとるんだ。


だけど、もし、ガーブが……俺は自分を保つことが出来ねぇかもしれねぇ……。


俺の不穏な雰囲気を察してか、俺の側から人影が遠のいてゆく。分かっているけれど、抑えきれねぇ……。


そこに特務隊の一人が転げるように走ってきた。

「はぁ、はぁ、シンさん!見つけました!ガーブさんの向かった方向が分かりましたぁ!」


俺はそいつの胸ぐらを掴む。「どこだ!どこへ行った!答えろ!」


「ちょっ!まっ!ぐっうぅううう!」俺の腕をパンパンと叩く。ハンスが俺の腕を取って男を解放する。


「ぐはっ!はぁはぁ。ガーブさんは、ガーブさんを乗せていたと思われる馬車を見つけました」


「どこの馬車だ!」


「はぁ、はぁ、この先の街道を昨日、十字教の遊行馬車が北に向かって通っていったそうです」


「……」


「街道沿いの老婆がそれを見ていたと。その馬車、○に十字の紋章をつけてたそうで、遊行馬車だと分かったそうです」


「……遊行馬車、だと?」


「はい、ですがおかしいと言ってました」


「……何がおかしい?」


「その紋章、色が“赤”だったそうです」


「“赤”だと?……まさか、人智十字教会?」


人智十字教会?……かつての十字教会から神聖十字教会と人智十字教会に分裂した方の一つの宗派だが、この宗派はもう存在しないはずだ。だが、裏で権力者を中心に隠れて信者を広めているという噂はある。


そいつらがガーブを狙った?いや、『俺たち』を狙った?


いや、それは後で考えりゃいい。今はガーブだ。


団員たちが集まってくる。皆俺を見ている。「……行くぞ! 行くぞ! ガーブを取り返す!方向は北!人智十字教会の遊行馬車を見つけろ!赤の○に十字の紋章!もしくは目撃情報を集めろ!行動開始!!」


俺は走り出す。ハンスもクリシュ・アランも走り出す。オットーさんは馬車を走らせる。


待ってろ!ガーブ!今、行く!!


俺たちはガーブの情報を、遊行馬車の目撃情報を探りながら街道を北に向かって進んでいった。


「教会の馬車?ああ。見た見た。ゆっくり走ってたな。どこへ?そこまでは分かんねえが北に向かってたよ」


「赤の○に十字?見た。あっちに向かって行った。一目神父様のお姿を見たいとうちの老婆が近寄っていたんだけどよ、無視されたって怒ってたよ。よっぽど偉い人が乗ってたのかね」


「おう、見たぜ。中?分かんねぇ、幌で完全に覆っていたしな。どこに?北の港町か?あんなさびれた町になにがあるんだろうな」


北に向かうにつれて目撃情報が増えた。北のさびれた港町に向かった、という情報が増えてきた。


昨日の昼間に北の港町に入る遊行馬車を見た、という情報で確定か。そしてその北の街には古い十字教教会がある。そこか!


「皆、行くぞ」俺たちは北の港町の教会を目指した。

そして着いた、北の港町の外れに建っている教会。俺たちはそれを包囲した。特務隊が探りを入れる。


「人があまり居るようには見えません。どうしますか」


「ハンス、特務隊で突入してくれ」


「分かった」ハンスたち特務隊が音もなく教会の敷地に入ってゆく。

暫くして、ハンスたちは2人の神父、服装から助祭だと分かる若い男を2人連れてきた。


「シン、この2人、昨日教会に入った遊行馬車を見ている。乗っていたのは、ガーブで間違いない」


「で、今はどこにいる」


「今朝出発したらしい」


「どこに向かった」


「東だそうだ」


「フランク王国に向かったのか!」俺は東に目を向ける。動き出そうとする俺たちを止める声が聞こえた。


「シンさん!ハンスさん!こっちに来てください!」


教会の建物の入り口から特務隊が俺たちを呼んでいた。

「こっちです!」


俺たちは特務隊の案内で地下に降りて行く。ガーブはここで拘束されていたらしい。ガーブが来ていた衣服の断片、飛び散った血の跡、鞭。野郎、何者か知らねぇがガーブを鞭打ちやがったな!血が沸騰しかける。


「ハンス、助祭に外に出て行った奴らの特徴を聞いてくれ」


「分かった」「後のもんは身元を確認できるものが無いか確認、その後追跡準備を」


助祭の話からすると、一行はふくよかな風体の大司教が一人と黒装束の男は20~30人程、そして女性が一人。出る時大司教は椅子に座って4、5人の男に担がれて馬車に乗り込んでいった、とのことだった。女性は厳重に拘束され、口には猿轡がはめられていたと。またかなり傷つけられていたと。


見つけた、ガーブだ。怒りを覚える。見つけたら許さねぇぞ!「追跡開始!!必ず捕まえる!」

それから街道を東に走り続けた。早く追い付かねば。


道々、街道を歩く旅人に聞き出しながら進む。遊行馬車の一行は確かにここを通っていったことが分かる。時間差は約半日。


もう少しで会える。


ところが途中でおかしな話が出て来る。「魔女狩り裁判?だと?」

「はい、フランクの西の外れの港町で魔女狩り裁判が行われると通達が出たとかで……今夜火あぶりするって……まさか、ガーブさんのことじゃないですよね?」震えながら報告する。


「ふざけんなぁあ!!!」

「阻止するんだ!助けるぞ!!急げ!!急げ!!急げえ!!」


俺たちは急ぐ。日が傾きかけていた。



その港街の広場に一般人が集まり始めていた。

広場の周りにはかがり火が焚かれ、黒服の男たちが周囲を監視していた。


「まだかな」


「もうすぐだろう」


「魔女裁判なんて、何年振りだろうかな、じいさん」


「ああ、かれこれ20年振りかのぅ」


「火あぶりか、楽しみじゃのぅ。こう火が付いたら魔女は叫ぶんだよ。その吐く息に火がついてのぅ、まるで火を吐いたような、あれこそ魔女じゃ、と思たわい。ひゃっひゃっひゃっ」


「じいさん悪趣味だな。お、そろそろ始まるようだ」


十字教の大司教が教会から出て来る。足が悪いのか、よたよたと歩いている。

その後ろに、後ろ手に縛られた女が連れて来られる。


大司教が両手を上げた。


「偉大なる我らが父なる神に大いなる庇護を賜らん!今宵、父なる神の御膝元に集いし、信仰厚き同胞はらからよ!今宵我らはここに神前裁判を開くものである。神の裁判を受けしこの者、悪魔の烙印を刻みし魔女だと告発を受け、我が前に引き出された!」ガーブが杭に鎖でつながれる。


「汝、魔女たるや?」大司教はガーブに向かって問いかける。


ガーブは何んも言わない。

「鞭を打て!」ビシッィイ!


大司教はにたりと笑う。「汝、魔女たるや?」

「鞭を打て!」ビシッィイ!


「汝、魔女たるや?」「汝、魔女たるや?」「汝、魔女たるや?」「魔女たるや?」

ビシッィイ!ビシッィイ!ビシッィイ!バシッィイ!ビシッィイ!


大司教はにたりにたりと笑い続ける。

群衆に向き直り声を張り上げる。


「見よ!この者、我の問いかけに答えず、鞭打たれても何もしゃべらん!」


「魔女は隠遁せし魔の術を使いし者、己の存在を明かさぬ者。見よこの者を!ここまでされても何も答えぬ、動かぬ、動じぬ!これこそ……魔女たる証!!」


ガーブは緋色の瞳で大司教を睨みつける。


「魔女め!何か言うことがあるか?ん~ん~んん~んん?」


ペッ!


ガーブが大司教に向かってつばを吐く。

大司教の表情が変わる。満面の笑みから無表情、そして憤怒へ。


「ふふふふふ、良い覚悟だ、魔女を火あぶりに処す!!準備を始めるのじゃ!」


大司教が一歩下がる。杭につながれたガーブの足元に薪が積まれてゆく。油の匂いがする。燃えやすいようにあらかじめ油が染み込ませているのだ。


大司教は用意させた壺を手に取り、中の液体、油をガーブの頭からかけて行く。


「ふひひひひ、どうじゃ、怖いだろう、それもこれも儂を拒み、傷つけたからじゃ。泣け、叫べ!命乞いしろ!儂の足を舐めろ、股を開け!そうすれば許してやらんでもないぞ!」


ニヤァア、と笑いガーブに顔を近づける大司教。ボソりとガーブが口を開く。


「ん~?なんじゃぁ~?」


「地獄に落ちろ、腐れ外道」


それを聞いた大司教、「刑を執行する!!」と叫び、松明を受け取る。そして後ろに下がる。


群衆に向かい「敬虔なる信徒たちよ!大司教たる我は神に代わり、この魔女に天罰を下す!」そして松明をガーブに向かって投げつけた!



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