第二十四話 同盟の条件
第二十四話 同盟の条件
丹波・本丸の大広間。
重厚な静寂が満ちる中、黒い忍び装束の上に羽織をかけた男が、一人静かに座していた。
徳川家康が懐刀――服部半蔵正成。
「……久しぶりだな、朔太郎。京の廃寺で槍を交えて以来か」
半蔵の鋭い眼光が、広間の上座に腰掛ける男を捉える。
かつて路銀三百五十文の泥まみれの浪人だった男は、いまや三千の精鋭と異能の若者たちを従える、丹波の国主となっていた。
朔太郎は長槍を横に置き、冷ややかな眼光で半蔵を見返した(魅力五十)。
「何の御用で?」
1 家康の打診
半蔵は苦笑混じりに首を振り、懐から家康の金印が押された一通の書状を取り出した。
「単刀直入に言おう。家康様が、この丹波国と同盟を結びたいと仰せだ」
広間の脇で控えていた剣道部の千佳子と、バレー部のさくらがハッと息を飲んだ。
「家康様は、柴田勝家を滅ぼして天下へ躍り出た秀吉の暴走に強い脅威を覚え、激しく警戒しておられる。……近いうちに、我が徳川は秀吉と全面対決(小牧・長久手)に入ることになろう。朔太郎、お前の力が必要だ」
「俺の力、だと?」
「そうだ。豊臣一万を逢坂山で食い止め、西国の覇者・毛利二万を粉砕したその『知恵』と『兵器』……そして三千の軍勢。お前が丹波から秀吉の背後を脅かしてくれれば、これほど心強いものはない」
2 冷徹なる対価
徳川家康からの対等な同盟の打診。
かつて仕官を蹴った男に対し、天下の徳川が頭を下げて協力を求めてきたのだ。
しかし、朔太郎の表情には微塵の動揺も、誇らしさもなかった(智謀八十)。
「断る……と言えば、どうする」
「なっ……!?」
半蔵の眉が跳ね上がった。
「徳川の都合で秀吉と戦い、我が丹波の三千をまた肉の壁として使い潰す気か? 俺は伊賀の乱で部下を死なせて以来、誰かの都合で兵を死なせないと決めている」
朔太郎の低い声が、広間に重く響く。
その背後で、千佳子が「さすが殿様……!」と目を輝かせ、さくらも深く頷いている。
「……ならば、どうすれば同盟に応じる」
半蔵が刺すような視線で問い詰めた。
朔太郎は膝の上で丸くなったパグの「丸」の頭をゆっくりと撫で、冷ややかな口元を吊り上げた(政務八十五)。
「三つの条件がある。一、丹波・丹後五十万石の完全なる独立と領有の承認。二、合戦の折、兵糧三千石と硝石(火薬の原料)十石を徳川から即座に供出すること。三、指揮権はすべて俺が握り、徳川の指示には従わん」
3 呑めぬならば
「……なにい!? 兵糧三千石に硝石十石だと!? 我が方とて余裕はないのだぞ!」
半蔵が思わず声を荒らげた。
「呑めぬならば交渉は終わりだ。お前たちが秀吉と戦って滅びようが、俺は丹波の要塞に引き籠もり、入ってきた敵をハメ殺すだけのこと」
一切の情を挟まない、徹底的な利害計算。
かつて落ちこぼれ忍びだった男が叩きつけた過酷な条件に、半蔵は言葉を詰まらせた。
沈黙が広間を支配する。
やがて、半蔵は深々と息を吐き、呆れたように肩を落とした。
「……相変わらず、可愛げのない男だ。だが……家康様は『朔太郎の出す条件なら、どれほど苛酷でも呑め』と仰っていた」
半蔵は書状を畳の上に滑らせた。
「同盟成立だ、朔太郎。……徳川と丹波の手により、あの秀吉を挟み撃ちにしてくれる」
4 決戦の盤面
「……決まりだな」
朔太郎は書状を手に取り、冷ややかに頷いた。
徳川家康との同盟成立。
これにより、丹波軍三千は単なる防衛勢力から、天下の覇権を揺るがす「東の徳川・北の丹波による秀吉包囲網」の主軸へと昇格したのだ。
膝の上のパグ・丸が「ぶひっ」と短く鼻を鳴らした。
土木科の要塞、野球部の爆撃隊、アーチェリー部、馬術部騎馬隊、そして徳川との同盟。
落ちこぼれ忍び・柘植朔太郎の槍が、いよいよ天下人・豊臣秀吉の喉元を本気で穿ちに動く刻が来たのである。




