第二十三話 乙女と兵三千
第二十三話 乙女と兵三千
毛利二万の軍勢を完膚なきまでに叩きのめした「丹波の怪物」の名は、瞬く間に近隣の国々へと轟き渡った。
その噂を聞きつけた丹波の地侍や、織田・豊臣の治世からあぶれた腕利きの浪人、さらには各地に潜んでいた伊賀の残党たちが、続々と朔太郎の砦屋敷へと集結。
高校生五百名、足軽・忍びを含め、丹波軍の総勢はついに「三千」という、一大名に匹敵する大軍勢へと膨れ上がっていた。
1 二人の乙女
「はい、殿様! 今日の干し肉と野菜のお粥です! 栄養バッチリですよ!」
本丸の軍議の席。どんぶりを差し出してきたのは、バレー部アタッカーの青木さくら(十六)であった。
弾けるような笑顔と明るい声。くノ一たちとバレーボールで汗を流す彼女は、いつしか給食や補給のリーダー格(家庭科部補佐)となっていた。
「……うむ」
朔太郎は長槍を壁に立てかけ、黙々と粥を口に運ぶ。
そのすぐ脇で、長刀を抱えて凛と立ち尽くしていたのは、剣道部主将の永野千佳子(十七)であった。
キリッとした凛々しい眉根に、綺麗な黒髪を後ろで束ねた少女。彼女は14話での合戦以来、朔太郎の身辺警護と白兵隊の指導役を自ら買って出ていた。
「殿、本日の足軽隊の稽古、間合いの見切りは完璧です。……いつでも、あなたの背中は私が守ります」
「……うむ。励め」
朔太郎の短すぎる返事。
しかし、さくらと千佳子の視線が、朔太郎の横顔を挟んでバチバチと火花を散らしていることに、当の朔太郎本人は一ミリも気づいていなかった(魅力五十)。
2 噛み合わない恋心
「ちょっと千佳子、殿様の警護にかこつけて距離近くない!?」
「何言ってるのさくらこそ。配給のたびに殿様に話しかけすぎでしょ。殿様は政務で忙しいんだから」
広場の隅で、二人の女子高生がコソコソと火花を散らす。
210名の仲間を失った絶望の縁から、自分たちを救い出し、圧倒的な凄みで守り抜いてくれた冷徹な武将・柘植朔太郎。
膝の上にパグの「丸」を乗せ、不器用だが完璧なロジックで仲間を生かしてくれるその横顔に、二人はすっかり心を奪われていたのだ。
「ぶひっ?」
二人の殺気を感じ取ったパグの丸が、朔太郎の膝の上で首をかしげる。
「どうした、丸。腹でも減ったか」
朔太郎は丸の頭を撫でながら、手元の帳面(政務八十五)から目を離さずに言い放った。
「青木、配給の手際が上がったな。兵糧の無駄が二割減った。……永野、見切りの指導が見事だ。足軽の生存率が上がった。二人とも、我が陣の貴重な戦力だ」
「「(そっちの意味の評価じゃな~い!!)」」
二人の乙女の心の叫びは、冷徹な指揮官の耳には一切届かないのであった。
3 三千の軍勢と天下の動向
恋愛模様に揺れる本丸とは裏腹に、広場では三千の精鋭たちが整然と陣を組んでいた。
土木科が築いた要塞。
アーチェリー部と弓道部の遠射隊。
野球部の爆撃隊。
馬術部の騎馬隊。
そして、千佳子たちが鍛え上げた三千の長槍足軽隊。
すでにこの丹波は、豊臣秀吉すら容易に手を引き出せぬ「完全なる独立要塞国家」へと完成しつつあった。
「……報告! 徳川家康公の使者が、本陣へ到着いたしました!」
忍びの報せに、朔太郎の目が冷ややかに細まった(智謀八十)。
「徳川か……。半蔵の主が、ついに動き出したか」
秀吉との天下分け目(小牧・長久手の戦い前夜)を控えた徳川家康が、この三千の軍勢と異次元の兵器を持つ「丹波の怪物・朔太郎」を放っておくはずがなかったのだ。
「さくら、千佳子。使者を本陣へ通せ。……天下の盤面を動かす交渉の始まりだ」
恋に揺れる二人の少女を従え、ひざ元に忍者犬・丸を抱いた柘植朔太郎。
三千の軍勢を従えた叩き上げの指揮官は、ついに天下人・秀吉と徳川家康のパワーゲームの真ん中へと躍り出たのである。




