第二十一話 炸裂の山谷
第二十一話 炸裂の山谷
「全軍――押し潰せぇッ!」
西国最強の誇りを胸に、毛利軍の先鋒五千が一斉に丹波の要塞へ向かって突撃を開始した。
大地を揺らす二万の足音。先頭を切る吉川元春の精鋭たちが、猛然と距離を詰めてくる。
しかし、土木科の生徒たちが計算し尽くして築いた十字砲火の射撃地帯に毛利軍の先頭が足を踏み入れた瞬間――朔太郎の長槍が、静かに振り下ろされた。
「放て」
一 異次元の十字砲火
シュシュシュシュシュッ!
見張り櫓の上に並んだアーチェリー部と弓道部から、無数の矢が一斉に解き放たれた。
現代の洋弓から放たれた鋭利な矢は、和弓の遥か上を行く初速と直進性で、毛利兵の当世具足の僅かな隙間を容赦なく穿っていく。
「ぐわぁっ!?」
「矢の飛距離と速さが異常だ! 間合いが掴めん!」
悲鳴を上げて足を止めた毛利軍に、追い打ちをかけるような甲高い快音が響き渡った。
カキィィンッ! カキィィンッ!
砦の土塁の陰から、野球部のバッター陣が特製の革巻きバットで鋭く弾き飛ばしたのは――導火線に火が点いた大量の『炮烙玉』であった。
さらにピッチャー陣が綺麗にしならせて投球した黒い爆弾が、八十メートル先の毛利軍の頭上へ、ピンポイントで降り注ぐ。
ドガァァァンッ! ズドォォォンッ!
「ひぇぁぁぁっ!?」
猛烈な炸裂音と黒煙が、毛利の先鋒隊を包み込んだ。
破片と爆風が容赦なく吹き荒れ、陣形を整える間もなく数十の兵が一瞬で肉塊と化す。
一度も手応えを得られぬまま、毛利の先鋒はあっという間にパニック状態の地獄絵図へと陥った。
二 破竹の側面突撃
「……敵の陣形が完全に崩れた」
爆煙の向こう側で、右往左往する毛利軍の惨状を冷静に見定めていた朔太郎が、長槍を構え直した。
「全軍、打って出るぞ。……奴らに立て直す隙を与えるな!」
砦の重厚な門が引き開けられた。
先頭に立つのは、馬術部員たちが訓練し、機動力を得た丹波騎馬隊。そして、その背後から整然と長槍を揃えた六百の精鋭足軽隊。
朔太郎自らが騎馬の先頭に立ち、長槍を横一文字に掲げて突撃する。
「側面を穿て! 切り崩せぇッ!」
大混乱に陥っていた毛利軍の左腹へ、朔太郎率いる丹波軍が疾風のごとく突き刺さった。
三 西国覇者の退却
ガァンッ!
柳生仕込みの見切りで毛利の騎馬武者の槍を弾き飛ばし、朔太郎はすかさず喉元を突き穿つ。
その背後から、現代格闘術の心得を持つ生徒たちと足軽隊が連なり、毛利兵を次々と地面へ叩き伏せていった。
「バカな……! 我が先鋒が、たかが数千の手勢に追いつめられているだと!?」
本陣で指揮を執っていた智将・小早川隆景の顔から、血の気が引いていた。
飛距離の違う洋弓、遠距離から正確に飛んでくる爆弾、そして隙のない完璧な陣形で側面を突いてくる白兵の槍。
「……いかん。これは秀吉が我が毛利の削り合いを狙った罠だ。これ以上兵を損なうわけにはいかん!」
隆景は即座に徹頭徹尾の冷徹さで判断を下した。
「全軍引け! 陣を払い、国境まで退却せよッ!」
西国最強と恐れられた毛利の旗印が、悲鳴とともに雪崩を打って引き始めていく。
四 追撃の眼光
「逃がすな! 国境の外へ追い出せ!」
返り血で黒く染まった長槍を握り締め、朔太郎は逃げ惑う毛利軍の背中を冷ややかな目で見見据えていた。
かつて、天正伊賀の乱で五百の部下を死なせ、たった五百文の銭だけを握りしめて泥をすすった落ちこぼれ忍び。
その男がいまや、現代の知識を得て覚醒した高専生たちとともに、天下の二万の大軍を一方的に叩き潰しているのだ。
遠く大阪の地で高みの見物を決め込んでいる豊臣秀吉へ向け、朔太郎は槍先を強く突きつけた。
「秀吉……貴様のけしかけた虎は、この程度か」
丹波の山あいに、新生・丹波軍の勝利の雄叫びが、天を突くようにこだました。




