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柘植朔太郎物語  作者: 水前寺鯉太郎
第二部

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第二十話 西国の覇者

 第二十話 西国の覇者

 天正十一年、秋。

 北陸・北ノ庄城にて柴田勝家が自害し、天下の覇権は完全に羽柴秀吉の手へと落ちた。

 秀吉は破竹の勢いで天下人としての基盤を固め、京や大阪を中心に絶対的な支配体制を築き上げつつあった。

 しかし、その秀吉の背後――丹波の地には、いまだ牙を剥き続ける男・柘植朔太郎が鎮座していた。

一 秀吉の陰謀

「朔太郎を叩くのに、わざわざ我が兵を損なう必要はあるまい」

 大阪城の本陣で、秀吉は不敵な笑みを浮かべていた。

 自らは天下取りの政務と織田旧臣の掌握に集中しつつ、秀吉が動かしたのは――西国の覇者・毛利家であった。

 本能寺の変以降、秀吉と和睦を結んでいた毛利輝元、そしてその両翼たる小早川隆景・吉川元春。

 秀吉は毛利に対し、「丹波・丹後の切り取り勝手(奪った土地は毛利の領地として認める)」を条件に、朔太郎討伐の出兵を要請したのだ。

 山陰・山陽を統べる西国最強の軍勢。

 その数、実に二万。

 逢坂山で秀吉軍を苦しめた朔太郎を削り、毛利の戦力も牽制する――秀吉の冷酷無比な政治的トラップであった。

二 迫り来る二万の雲霞

 天正十一年、十月。

 山陰街道を埋め尽くすように、毛利家の「一文字に三星」の旗印がなだれ込んできた。

「報告! 毛利軍の先鋒、吉川元春の軍勢一万が丹波国境へ侵攻! 後陣の小早川隆景一万と合わせ、総勢二万の膨大な軍勢です!」

 砦の見張り櫓で、忍びが青ざめた顔で報告する。

 二万。逢坂山で戦った豊臣軍の一万を遥かに凌ぐ、絶望的な物量であった。

 だが、砦の本丸で長槍を磨いていた朔太郎の表情には、微塵の動揺もなかった。

「毛利か……。秀吉め、自らの手を汚さず西国の虎をけしかけてきたか」

 朔太郎は、秀吉の意図を瞬時に見抜き、冷ややかに口元を吊り上げた。

「……丁度いい。新生した丹波の力、毛利の二万相手に試させてもらう」

三 異次元の迎撃陣

 毛利軍二万が目にしたのは、かつての丹波の山々とは完全に異なる「異形の光景」であった。

 土木科の高校生たちが正確な測量と構造計算で築き上げた、無数の強固な土塁と、計算し尽くされた殺戮ゾーン。

 見張り櫓には、アーチェリー部と弓道部が配置された長距離射撃陣。

 そして、馬術部が訓練を重ねた機動騎馬隊が、森の陰で静かに牙を研いでいる。

「な……なんだあの砦は!? あんな整然とした城郭、見たこともないぞ!」

 猛将・吉川元春率いる毛利の先鋒隊が、異質な要塞を前に足を止めた。

 後陣で指揮を執る智将・小早川隆景も、眼光を鋭く細めた。

「……待て、元春。軽挙は慎め。あの城、ただの浪人の造作ではない。底知れぬ理(ことわり)を感じる……!」

四 開戦の砲声

 前線に立った朔太郎は、長槍を高く掲げた。

 背後に控えるのは、忍びの炮烙玉を手に抱えた野球部員たち――『丹波投擲爆撃隊』。

「よし、野球部。……ターゲットは前方の毛利の先鋒隊だ。思い切り叩き込んでやれ」

「了解ッス、殿様! ストライクゾーンに叩き込んでやりますよ!」

 ピッチャー陣が、導火線に火の点いた炮烙玉を握り締め、綺麗なワインドアップのフォームに入った。

 秀吉が天下への盤面を完璧に固める中、丹波の山あいで、西国最強・毛利二万対「新時代・丹波軍」の、かつてない異次元の決戦が、いま幕を開けたのである!

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