第十八話 知識の目録
第十八話 知識の目録
丹波の砦屋敷。本丸の広間に、一冊の色鮮やかな冊子が広げられていた。
おずおずと差し出してきたのは、生き残った教員たちのリーダー格である中年男性であった。
「……あ、あの、殿様。自分たちの学校がどういう場所だったのか、これを見ていただければ……」
朔太郎は長槍を横に置き、紙質の滑らかなその冊子――『〇〇工業高等専門学校・学校案内パンフレット』を手にとった。
そこに躍っていたのは、朔太郎の想像を遥かに超える、現代の専門知識の目録であった。
一 四つの学科
「……ドボク科、トクシン科、スポーツ科、フツウ科……?」
朔太郎が眉をひそめると、教員が慌てて解説を加えた。
「はい! 土木科は、道路や橋、土塁や建物を造る測量や建設の技術を学んでいる生徒たちです。特進科は数学や計算、複雑な処理が得意な頭脳派。スポーツ科は身体能力が突出した運動のエリートたちで……」
その説明を聞いた瞬間、朔太郎の瞳の奥に凄まじい怪光が宿った。
「なに……!? 土地を削り、傾斜を測り、頑強な城郭を短期間で築く『土木の技術者』が、あの若者の中に百人もおるというのか!?」
「は、はい! 重機はありませんが、測量や構造計算の知識なら……!」
「特進科とやらは、我が陣の兵糧の勘定や年貢の計算ができるな。スポーツ科は白兵の骨組みだ。……なんという人材の宝庫だ」
朔太郎にとって、そのパンフレットは単なる学校の紹介紙ではなく、一国を根底から作り替えるための「最強の職人目録」に他ならなかった。
二 未知なる部活
さらにページをめくった朔太郎の指が、部活動の紹介欄でピタリと止まった。
「バレー部、馬術部、剣道、柔道、空手、野球、弓道……ここ生までは聞いた。……この『アーチェリー部』『家庭科部』『茶道部』とは何だ?」
「ア、アーチェリーは洋式の弓です。和弓よりも小型で狙いが正確に定まり、遠距離から敵を射抜くことができます! 家庭科部は服の縫製や保存食の調理、傷口の衛生管理ができます。茶道部は……その、お茶を点てる作法を……」
「茶だと……!?」
朔太郎の目が開いた。
戦国時代において、「茶の湯」は大名や豪商との外交における最大の武器である。武骨で愛想のない朔太郎にとって、格調高い茶の湯の作法をこなせる存在は、外交上で喉から手が出るほど欲しいピースであった。
「洋弓による遠距離狙撃……傷の治療と兵糧開発……そして大名外交の茶……!」
三 丹波の進化
パンフレットをパタンと閉じた朔太郎は、冷ややかな口元を大きく吊り上げた。
「……素晴らしい。天は俺に、ただの怪異ではなく『国作りの種』を授けたか」
朔太郎は即座に立ち上がり、控えていた配下の足軽頭たちと、集められた生徒の代表たちに命じた。
「土木科はただちに丹波国境の砦の補強にとりかかれ! 排水と圧搾の技術で不落の土塁を築くのだ! 特進科は米蔵の勘定と正確な地図の作製! アーチェリー部は弓隊の長となれ! 家庭科部は傷病兵の手当てと新しい保存食の仕込みだ!」
「「「はいっ!!」」」
ただ守られるだけの避難民だった高専生たちが、己の専門知識という武器を得て、一斉に活気づき始めた。
土木科の生徒たちが正確な測量で強固な土塁を築き、家庭科部が清潔な包帯と栄養価の高い兵糧を作り、アーチェリー部が長距離狙撃陣を整え、馬術部が機動騎馬隊を訓練する。
落ちこぼれ忍び・柘植朔太郎の冷徹な指揮のもと、現代の技術と戦国の泥臭い軍術が融合した、かつて天下の誰も見たことがない「未知の最強国家・丹波」が、いま急速に誕生しようとしていた。




