第十七話 庭の異風
第十七話 庭の異風
丹波の砦屋敷に収容されて数日。
二百十名の仲間を失った悲しみは消えないものの、五百名の高校生と四十名の教師たちは、朔太郎から与えられた温かい粥と屋根の下で、ようやく息を吹き返しつつあった。
そんな中、砦のあちこちでは、戦国と現代が混ざり合う奇妙な光景が広がり始めていた。
一 白兵の原石たち
「弓道部、剣道部、空手部、柔道部……前に出ろ」
屋敷の広場に集められた生徒たちを前に、朔太郎は長槍を地面に突き立て、一切の情を挟まぬ冷ややかな眼光を向けた。
「お前たちの技は見た。弓引きはそのまま我が陣の射手となれ。剣と格闘を修めた者は、足軽どもの分隊長として白兵の指揮を叩き込む」
朔太郎の頭脳は彼らを哀れむどころか、即座に「戦力の再編」へと組み込んでいた。理科や化学が得意な生徒には火薬の調合補助を命じ、家庭科部には炊き出しと衛生管理を割り当てる。
「人を殺すための技ではありません!」
抗議する教員を、朔太郎は一瞥のもとに一蹴した。
「ここでの死は、すべて自己責任だ。技を磨き、己と仲間を守る術を覚えて何が悪い。文句があるなら、次に来る豊臣の一万を自力で追い払ってみせろ」
二 忍びと排球
重苦しい軍議の空気が漂う本丸のすぐ横、日当たりの良い中庭からは、思わぬ歓声が上がっていた。
「そ~れ、ナイスボール! トス上がったよ!」
「任せなさいッ! ハイッ!」
ポンッ、ポコンッ! と軽快な音を立てて弾んでいたのは、女子バレー部の生徒たちが非常用持ち出し袋から引っ張り出してきた一個のバレーボールであった。
「……ほう。あの丸い革袋を、地に落とさずに手足で繋ぐか」
縁側でそれを見目麗しく、しかし驚愕の眼差しで見つめていたのは、朔太郎配下の「くノ一(女忍び)」たちであった。
人間離れした跳躍力と動体視力を持つ忍びたちは、バレー部の女子生徒たちが繰り広げるパス回しに興味津々だ。戦国の毬とは比べものにならない弾力と滑らかさに、息をのんでいる。
「私にもやらせてくれないか!」
身軽に庭へ飛び降りたくノ一が、生徒の放ったトスに対し、凄まじい跳躍からバチァンッ! と庭の木々を揺らす烈烈たるスパイクを叩き込んだ。
「きゃあ!? すごいスパイク! お姉さん、バレーの才能あるよ!」
「ふふん、任せろ。この『排球』という術、空中での身のこなしに実に役立つな!」
戦国の忍びと現代の女子高生が、ボール一つでキャッキャと声を上げて笑い合う。
殺伐とした砦の中に、束の間の平和な時間が流れていた。




