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柘植朔太郎物語  作者: 水前寺鯉太郎
第二部

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第十六話 収容と移送

 第十六話 収容と移送

「……敵か、だと?」

 血まみれの和弓を握りしめ、自分を射抜くような鋭い眼光で見返してくる男子生徒――その「覚醒した瞳」を見つめ、朔太郎は鼻で冷たく笑った。

「敵であれば、こうして喋る前に首と胴が離れている。……それに、俺は無駄な殺生をするほど暇ではない」

 朔太郎は長槍を地面に突くと、一転して冷ややかな目で崩れかけたコンクリートの校舎と、周囲の深い山並みを見渡した。

「ここにいては、またやられるぞ」

一 冷徹なる撤退勧告

「な……またやられる、だと……!?」

 呆然としていた教師の一人が、掠れた声で問い返した。

「いま追い払った豊臣の先鋒は、ほんの端数だ。敵の総大将・黒田官兵衛は、一度狙った獲物を決して逃がさん。……この異形の城が立ち重なる平地は、包囲して焼き払うには格好の標的だ。夜が明ければ、次は一万の大軍がここを埋め尽くす」

 朔太郎の提示した事実は、あまりにも残酷で、完璧な筋道に基づいていた。

「助かりたくば、立つんだ。……俺の城へ来い」

「アンタの城……? 僕たちを奴隷にする気か!?」

 血を流した生徒が警戒感を露わにする。しかし朔太郎は、気にも留めずに背を向けた。

「奴隷など飯の無駄だ。俺が欲しいのは、死線で抗う度胸を持った『兵』と、俺の領国を維持する『手足』だ。……断るならここに残り、明朝、豊臣の鉄砲に頭を撃ち抜かれて死ね」

二 担架の列と接収

 生か死か。選択の余地など最初から存在しなかった。

 絶望的な現実に打ちひしがれながらも、生き残った五百名の生徒と四十名の教師たちは、朔太郎の指示に従うしかなかった。

「おい、手伝ってやれ。それと、あの城の中にある奇妙な薬や布、食料の類も余さず運び出せ」

 朔太郎が短く指示を飛ばすと、待機していた丹波の足軽たちが一斉に動き出した。

 彼らは手際よく竹と布を使って即席の担架を作り上げると、動けない重傷の生徒や教師たちを次々と乗せて担ぎ上げていく。同時に、保健室の薬品や包帯、給食室の保存食を手際よくまとめ、手押し車や馬の背へと積み込んでいった。

「大丈夫か、小僧。しっかり掴まっておけ」

「ひっ……あ、ありがとう……」

 言葉遣いは荒く、返り血で黒く染まった当世具足を纏う武士たち。

 だが、その手つきには無駄がなく、恐ろしいほどの慣れた手つきで負傷者を救護し、物資を回収していく。

 朔太郎の手によって叩き上げられた足軽隊は、戦うだけでなく、戦場での完璧な後送と物資調達の手順すら叩き込まれていたのだ。

三 学校をあとに

 夕闇が迫る中、長大な移送の列が丹波の山道へと動き出した。

 生徒たちは何度も振り返り、自分たちが通っていた学校を見つめた。

 黒く焦げ付き、無数の弾痕が刻まれたコンクリートの校舎。その校庭には、二百十名におよぶ仲間と教師たちの遺体が、静かに冷たくなっている。

「さようなら……みんな……」

 女子生徒のすすり泣きが、山風にさらわれて消えていく。

 平和だった現代の日常との、完全なる決別。

 彼らは二度と戻れぬ学校をあとにし、生き残るために戦国の闇の中へ足を踏み入れたのである。

四 丹波の要塞へ

 山道を抜けた先、生徒たちの目の前に広がっていたのは――深い土塁と高い堀に囲まれた、凄まじい圧迫感を放つ木造の巨城であった。

 見張り櫓には数知れぬ長槍が並び、敷地内には整然とした兵糧庫と武具蔵が建ち並んでいる。

「ここが……この人の城……」

 先頭を歩く朔太郎は、長槍を担ぎ直すと、重厚な城門の前で足を止めた。

 振り返った彼の冷ややかな瞳が、疲れ果てた五百名の異界の若者たちを捉える。

「ようこそ、俺の陣へ。……ここから先は、生き残るための訓練だ」

 懐のたった五百文から始まった男の城に、現代から召喚された五百の若者たちが迎え入れられた。

 豊臣秀吉の天下統一の野望を粉砕するための、真の独立国家・丹波の「新しい力」が、いま静かに結集したのである。

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