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柘植朔太郎物語  作者: 水前寺鯉太郎
第二部

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第十五話 血の校庭

 第十五話 血の校庭

 硝煙と返り血の匂いが、夏の校庭に重く立ち込めいていた。

 朔太郎率いる丹波軍の側面突破と、身を削るような高校生たちの泥臭い抵抗により、襲撃してきた豊臣軍の先鋒はついに耐えかねて山奥へと撤退していった。

 静寂が訪れた校庭に響くのは、途切れ途切れの嗚咽と悲鳴だけであった。

一 二百十の犠牲

「嘘だろ……なあ、目を覚ませよ……っ!」

「先生……っ! 先生ぇッ!」

 さっきまで軽口を叩き合っていた友人や教員たちが、黒塗りの弾丸に撃ち抜かれ、鋭い槍に穿たれて物言わぬ肉塊と化していた。

 生徒七百名のうち、生き残ったのは五百名。

 教員五十名のうち、残されたのはわずか四十名。

 二百十名という絶望的な死者数。

 それは、現代の日本でぬくぬくと生きてきた若者たちにとって、あまりにも凄絶で過酷な「戦国の洗礼」であった。

 しかし――生き残った五百名の生徒たちの瞳から、うろたえや甘えの色は消え失せていた。

 手に握りしめた金属バットや折れた弓、血に染まった木刀。彼らは根性と生存本能だけで、本物の戦国武士を追い払ってみせたのだ。

二 冷徹なる接近

 ザッ、ザッ、ザッ……。

 血の海と化し、静まり返る校庭に、揃わされた足音が響いた。

 長槍を整然と立て、防衛陣形を維持したまま進軍してくる六百の丹波軍。

「ひっ……また武士が……!?」

 怯える生徒たちをかばうように、負傷した数名の教師が前に出ようとするが、膝が震えて立ち上がれない。

 その血に染まった兵たちの先頭から、一人の男が静かに歩み出てきた。

 黒革の当世具足を纏い、長槍の柄に手をかけた男――柘植朔太郎である。

 朔太郎の冷ややかな眼光が、倒れ伏す死体の山と、肩で息をしながら武器を構え直す現代の高校生たちを、冷酷なまでに正確に検分していく。

三 「大将は誰だ」

 朔太郎の頭脳は、瞬時にこの異常な集団の価値を弾き出していた。

 異形の城塞……二百以上の仲間を失いながら、浮足立たずに敵を撃退した……。まともな訓練も受けておらん小僧どもが、恐怖に狂わず陣を維持したか。

 ただの烏合の衆ではない。

 死線の恐怖を潜り抜け、生き残るために牙を剥いた「兵の原石」たち。

 朔太郎は教師たちの制止を完全に無視し、血まみれの金属バットを握りしめて立ち尽くす数名の生徒たちの前で足を止めた。

 そして、返り血のついた頬を拭いもせず、腹の底に響く低い声で問いかけた。

「……おい」

 朔太郎の放つ圧倒的な殺気と威圧感に、周囲の空間が一瞬で凍りつく。

「この群れの、大将は誰だ」

四 対峙

 その問いかけに、大人の教師たちは言葉を失い、ただ怯えて縮こまるばかりであった。

 しかし――生徒たちの人波が、すっと割れた。

「……僕たちに、大将なんていません」

 前に進み出てきたのは、手のひらを血で真っ赤に染めた、一人の男子生徒であった。

 弓道部のユニフォームは破れ、肩からは激しい出血。だが、その手にはしっかりと和弓が握りしめられ、その瞳は朔太郎の冷徹な眼光を正面から見返していた。

「でも……仲間を殺されたまま黙ってるつもりもありません。……アンタたちは、敵ですか?」

 冷酷な戦国の叩き上げ・柘植朔太郎と、絶望の淵で牙を覚醒させた現代の高校生。

 ふたつの異質な存在が、血煙漂う校庭の中心で、ついに真正面から対峙したのである。

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