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柘植朔太郎物語  作者: 水前寺鯉太郎
第二部

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第十四話 抗う若葉たち

第十四話 抗う若葉たち

 パン、パパァンッ!

 無数の鉛玉がコンクリートの校舎を打ち削り、校庭に鋭い惨叫が響き渡る。

「ヒッ……嫌だ、死にたくないっ!」

「警察は!? 警察は何やってんだよ!」

 突如として戦国の戦場へ叩き落とされた七百名の高校生と教師たちは、突撃してくる豊臣軍の兵士たちを前に、ただ右往左往して逃げ惑うばかりであった。

「ハハハッ! 妖術使いの弟子どもめ、皆殺しにしてくれる!」

 刀を掲げた豊臣の足軽たちが、パニックを起こした生徒たちへ容赦なく躍りかかる。

一 身近なる「獲物」

 しかし――死の絶望が迫ったその瞬間、恐怖を怒りと生存本能で塗りつぶした者たちがいた。

「逃げてちゃ、殺される……っ!」

 武道場から飛び出してきたのは、弓道部の部員たちであった。

 手にしているのは、竹製の和弓と練習用の矢。

「狙え……! 兜の隙間だ、首筋と顔面を射抜けっ!」

 部長の叫びとともに、数本の矢がしなやかに放たれた。

 ヒュッ! と風を切り、先頭を走っていた豊臣兵の喉元と目の奥を正確に穿つ。

「ぐあああッ!?」

「な……矢だと!? あいつら、弓を持っているぞ!」

二 体育会系の反撃

 それを合図に、校庭のあちこちで現代の高校生たちによる決死の抵抗が爆発した。

「ウチの部員に手を出すんじゃねえッ!」

 野球部のキャプテンが振り抜いたのは、硬式用の金属バット。

 激しい金属音とともに、襲いかかってきた豊臣兵の兜を叩き割り、脳を揺らす凄まじい一撃を叩き込む。

 さらに剣道部の生徒は木刀を手に見切りを合わせ、足軽の刀を弾いて間合いを詰める。柔道部や格闘技経験者の生徒たちは、槍の柄を掻い潜って間合いを潰し、鎧の上から首投げや関節技で豊臣兵を地面に叩きつけて刃を奪い取った。

「なんだこいつらは……!? 術も使わぬくせに、異様な道具と妙な組み技で立ち向かってくるぞ!」

 訓練された武士の集団に対し、現代スポーツで鍛え上げられた若者たちの身体能力と機転が、局地的な抵抗線を作り出し始めたのだ。

三 冷徹なる眼光

 山あいの高台から、その光景を静かに見下ろしていた男がいた。

 長槍を手に率いる、柘植朔太郎である。

「……ほう」

 朔太郎の瞳に、冷ややかな閃光が走った。

「烏合の衆かと思ったが……あの群れの中には、己の道具を手に取り、死線で抗う『兵の芽』が混じっているな」

 ただ守られるだけの豚ではない。

 追い詰められれば牙を剥く、生きる意欲を持った若者たち。

「一千の烏合の衆も、芯となる『骨』があれば軍隊になる。……あの若者どもは、使える」

 冷徹な頭脳が、即座に勝利と利害の計算を叩き出す。

 朔太郎は長槍を高く掲げ、静かに、しかし腹の底に響く声で下命した。

四 本物の陣

「全軍、突撃。……あの異形の若者どもの反撃に合わせて、敵の側面を穿つ」

「「「おーッ!!」」」

 豊臣軍の足軽たちが、反撃する高校生たちを数の暴力で押し潰そうとしたその瞬間――。

 ズ・ズ・ズンッ!

 重厚な踏み込みとともに、竹林の中から幾条もの「長槍の壁」が姿を現した。

 朔太郎が叩き上げた、六百の精鋭足軽隊である。

「横に広がるな! 間合いを揃えて突けぇッ!」

 朔太郎の凄まじい指揮のもと、揃えられた長槍の衾(やりぶすま)が、高校生たちに襲いかかっていた豊臣軍の側腹へと容赦なく突き刺さった。

 血飛沫が舞い、悲鳴を上げて崩れ去る豊臣の兵たち。

 金属バットや弓を握りしめ、肩で息をしていた高校生たちの前に、返り血を浴びた冷徹な武将――柘植朔太郎が、長槍を手に静かに立ち塞がった。

「……息を整えろ、異界の若者ども。ここからは、本物の合戦の時間だ」

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